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難聴遺伝子の検査、研究進み診断率向上へ…聴力の変化や合併症予測も
生まれつきの難聴の半数以上は遺伝性とみられています。難聴の遺伝子検査で原因となる変異が分かれば、そのタイプに応じて、聴力の変化や合併症を予測でき、治療法の決定にも役立ちます。解明されていない難聴遺伝子の研究も進んでおり、診断率の向上が期待されています。(中島久美子)
早期の手術決断
難聴には、外耳や中耳に問題がある「伝音難聴」と、内耳や聴神経、脳に問題がある「感音難聴」があります。遺伝性のほかに、ウイルス感染や奇形、加齢などでも起こります。
難聴の遺伝子検査は2012年4月、公的医療保険で認められました。遺伝性難聴が疑われる人の血液を採取し、19遺伝子154か所の変異を調べます。年約1500人が受け、2割が遺伝性難聴と診断されます。
生後まもなく両耳の感音難聴と診断された静岡県の女児(9)は14年春、1歳半の時に検査で遺伝性と判明しました。聴力低下が進むタイプで、音を電気信号に変換する医療機器「人工内耳」が有効です。2歳の頃に人工内耳の電極を埋め込む手術を受けました。言葉は順調に発達し、通常の学級で学んでいます。ピアノやフルートが得意です。
女児に見つかった遺伝子変異は、めまいを起こしやすく、甲状腺の腫れを伴うこともあります。このため、めまいを誘発する逆上がりなどの運動は避け、定期的に甲状腺の検査を受けます。母親(44)は「内耳に問題があるタイプの遺伝性難聴とわかり、早期の手術を決断できました。必要な手立ても示されたので前向きになれました」と言います。
難病の診断に活用
難聴遺伝子の検査が保険適用になり22年春で丸10年。この間、難聴の遺伝子研究も進みました。
信州大名誉教授の宇佐美真一さんのグループが今年10月、全国102医療機関で検査を受けた約1万人の研究成果を国際医学誌に報告しました。保険適用の範囲で調べられる19遺伝子を含む63遺伝子を解析し、個々の聴力や家族歴などと突き合わせると、51遺伝子約1200か所の変異が難聴と関連していました。これにより参加者の4割を遺伝性難聴と診断しました。
新たに特定された遺伝子の一部はすでに、難病の診断に活用されています。東京都の男性会社員(35)は5年前に研究に参加し、難聴に加え、徐々に視野が狭くなる難病「アッシャー症候群」の原因遺伝子の変異が見つかりました。
男性は今年夏に左の人工内耳手術を受けました。「目や耳の症状の原因がようやく分かりました。今は目の治療法はありませんが、これから遺伝子治療の道が開けるかもしれません」と期待を寄せています。
研究成果を踏まえ、検査を実施する「ビー・エム・エル」(東京)は22年初めにも、保険がきく検査項目を約50遺伝子1000変異程度に広げる予定です。診断率の向上が見込まれるものの、新たに判明した変異の多くはまれなタイプです。主治医が検査結果の説明や治療法に戸惑うことも予想されます。遺伝子診療に詳しい鳥取大研究推進機構教授の難波栄二さんは「専門家が主治医に助言できる体制の充実が必要です」と話しています。
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