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科学的介護の世界<上>服を脱ぐ認知症の男性 とがめず「なぜ」を考える…仮説を立てSOS理解へ

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 経験や勘に頼りがちとされてきた介護現場で、客観的なデータに基づいたケアや、人工知能(AI)を活用した業務効率化の試みが広がりつつある。「科学的介護」と呼ばれ、担い手不足や認知症の人の増加といった課題を乗り越える有力な手段として期待を集めている。

■SOSと捉える

科学的介護の世界<上>認知症 仮説を立ててケア

「仮説」に基づいたケアの効果を話し合う佐々木さん(左から2番目)ら。対応の見直しを繰り返しながら、利用者にとって最善のケアを探る日々だ(上北沢ホーム提供)

 東京都世田谷区の特別養護老人ホーム「上北沢ホーム」。認知症が進んだ高齢者約30人が暮らす4階フロアで、ソファに座っていた男性(81)がおもむろに服を脱ぎだした。

 介護福祉士の佐々木萌子さん(35)はすぐに気づいたが、制止はせず、男性がパンツ姿になったところで、脱いだ上着やズボンをきれいにたたんで手渡しながら、明るく話しかけた。「着替えを持ってきましたよ」。男性は「ありがとう」と笑顔を見せると、再び服を着始めた。

 「無理に着せようとしない」。佐々木さんの男性への接し方は、 徘徊はいかい や暴言・暴力、興奮といった認知症の人にみられる行動・心理症状(BPSD)の改善を目指し、東京都医学総合研究所の西田淳志さんらが開発したケアプログラムに基づいている。

 西田さんは「BPSDを『意味のわからない困った行為』ではなく、認知症の人からのSOSなんだと考えるのが、このプログラムだ」と説明する。

 東京都によると、このケアプログラムを介護施設などで実践している自治体は、19市区町村(今年6月30日現在)に上る。

■50字以内で

科学的介護の世界<上>認知症 仮説を立ててケア

 ケアプログラムでは、まず認知症の人がなぜ、その行為に及ぶのかを考え、「仮説」を立てる。その上で、接し方の方針を50字以内にまとめ、全職員に徹底する。文字数を制限するのは、簡潔で誰にでもわかりやすいようにするためだ。

 「食事量の不足」「身体の痛み」「暑い・寒い」――。チームを組んだ複数の職員がタブレット端末などを使い、行為の背後にあるメッセージを探るために用意された約90の質問に、「はい」「いいえ」で答えながら、仮説を組み立てていく。

 佐々木さんチームの3人が導き出した仮説は、「男性が服を脱ぐ行為を繰り返すのは体温調節がうまくいかずに暑がっているから」。そこで「やめてください」「みんなが見てますよ」と、とがめる従来の対応を改め、脱いだ時には無理に着せず、理由を尋ねることにした。

科学的介護の世界<上>認知症 仮説を立ててケア

 対応を変えてしばらくすると、制止する職員に激しく抵抗していた男性は、笑顔で職員に話しかけるようになった。つばを吐くなどの行為も減った。

 8月上旬、男性が寝る際、部屋で扇風機を回してみたところ、状態はさらに改善。一晩にトイレに起きる回数が6回ほどから2回ほどに減り、服を脱ぐ行為も少なくなったという。

 ケアプログラムでは、仮説に基づいた介護で、BPSD(12項目)がどれほど改善したかをスタッフ同士の検討を経て点数化する。7月上旬に計44点だった男性の点数は、8月下旬に計34点に改善。介護福祉士の福谷紀子さん(52)は「点数が下がると、手応えを感じる。自信を持って介護できる」と強調する。

 西田さんは「認知症の人は職員ごとにバラバラな対応をされると混乱しやすい。根拠や仮説に基づく統一的な介護を行い、試行錯誤しながら、その人に最も良いケアを見つけることが大切だ」と話す。

「低栄養」見つけアドバイス

科学的介護の世界<上>認知症 仮説を立ててケア

タブレット端末で利用者に質問しながら、低栄養状態の人を見つける取り組み(さいたま市のソラスト武蔵浦和で)

 介護大手のソラスト(東京)が、首都圏などのデイサービスの利用者を対象に4月から始めたのが、数値に基づく栄養指導だ。握力やふくらはぎの太さの数値、食べ物ののみ込みなどに関する質問などの計14項目から低栄養状態の人を見つけ出し、管理栄養士によるアドバイスにつなげる。

 これまでに14事業所の利用者約210人に対して行い、約50人が低栄養と判定された。さいたま市のソラスト武蔵浦和では2人が該当した。低栄養と判定された利用者の家族は「食べてもらっているつもりだったので驚いた」と話す。

 今後は、取り組みの成果をデータとして蓄積し、全国の事業所で展開していく考えだ。ソラスト事業開発本部の高崎哲矢部長は「健康になれる方程式のようなものを作れれば」と語る。

 事業に協力する公益社団法人東京都栄養士会の上野俊常務理事は、「高齢者は食が細くなりがち。数字を基に話すことで、本人にも家族にも意識してもらいやすい」と話している。

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