リングドクター・富家孝の「死を想え」
医療・健康・介護のコラム
高齢者をがんや心疾患に仕立て必要ない手術まで…終末期医療に残る深い闇
終末期の患者が病院の儲けのネタになっている
回復が難しい高齢者を受け入れる病院は、「老人病院」とも言われました。患者の多くがベッドに寝たきりで、体にはチューブがつながれている人もいます。直接、胃から栄養を摂取できるようにする「胃ろう」や、静脈にカテーテルを通して栄養を送る「IVH」などの方法で生かされています。この状態の感じ方は人それぞれだと思いますが、中には「生き地獄」だと言って、「早く死なせてほしい」という訴えを私は何度も聞いたことがあります。
実はかつて私も、こうした老人病院のチェーンを経営していたことがあるので、事情はよくわかります。生活するには介護が必要で、自宅でお世話をするのが大変な高齢者などを引き受けます。こうした高齢者の中には家族にお荷物扱いされている方も少なくないので、ケアに関してはあまり要望や苦情が出ません。そこで、死期が近づいたら延命のために思い切り濃厚な治療を行えば病院の収入は上がります。
生活保護者は病院のドル箱
なかには、職員に福祉事務所などを回らせて、家族がいない一人きりの患者を集めているところもあります。病気を抱えた生活保護受給者は、病院にとっては最高の「ドル箱」です。すべて公費で賄えるからです。終末期医療と言えば聞こえはいいですが、死亡時の診療報酬の審査は緩い傾向があって、終末期医療ビジネスが成立する経済的な環境や家族の事情があるのです。かつて摘発された例では、必要がないのに、がんや心疾患などに仕立て上げ、手術までしていたところがあります。
本人が望むケアや死に方を実現するには、本人とそれを支える家族、医療スタッフのコミュニケーションが大切です。その話し合いを「人生会議」と呼んで、厚生労働省も推奨しています。しかし、現実には、そうした理想とはかけ離れた終末期の現場もあるのです。終末期医療が依然として病院の金儲けのネタにされてはいないか……そこが気になるのです。
親を入院させておけば、年金でおつりが来る
長く医者をやっていると、日本の終末期医療は間違っていると痛感してきました。75歳以上なら、原則的には医療費の9割は保険が適用されますから、患者側の負担は1割で済みます。となると、入院させておけば年金でおつりが来るケースも少なくありません。
多くの高齢者を看取っている病院グループの理事長が話していました。「『できるだけ長く生かしてあげてください』なんて言うご家族は、親の年金をあてにしていることも多いですね。逆にそうでないご家族からは、『本人がつらくないように、楽に逝かせて下さい』と言われます」
年金の支給日は、月の半ばの15日です。そのため、家族から「15日までは死なせないでくれ」と頼まれたという話もよく聞きます。
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