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リングドクター・富家孝の「死を想え」

医療・健康・介護のコラム

高齢者をがんや心疾患に仕立て必要ない手術まで…終末期医療に残る深い闇

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 さる11月9日、横浜地裁で、入院患者3人を殺害したなどとして死刑が求刑されていた元看護師の久保木愛弓被告(34)に、無期懲役の判決が言い渡されました。メディアは当初、求刑通りの死刑を予測していましたが、無期懲役になったことで、疑問視する声が上がりました。なぜなら、被告の元看護師に、精神的な衰弱・異常はなく、「完全な責任能力がある」と認められていたこと、さらに判例から言って「3人以上の殺人は死刑」が通例だったからです。横浜地検は22日に判決を不服として控訴し、これを受けて弁護側も控訴しました。

旧大口病院で起きたこと

 事件が起きたのは、2016年9月。病院の4階病棟で、約3か月の間に48人もの患者が死亡していたことが発覚したのです。久保木容疑者が逮捕されたのは、それから2年後。当初から関与を疑われていましたが、逮捕された後に「20人くらいやった」と自白したというので、社会に衝撃を与えました。立件・起訴されたのが3人だけだったのは、この3人を除いて、遺体はすべて火葬されてしまっていたため、証拠として鑑定できる血液が残っていなかったからでした。

 彼女の犯行は、患者の点滴袋に消毒液「ヂアミトール」(界面活性剤)を注射器で混入するという、じつに単純なものでした。しかし、これで患者は簡単に死んでしまいます。なぜ、彼女はこんなことをしたのでしょうか? 供述によると、「自分が担当の日に患者が死ぬと、遺族にいちいち説明する必要があった。それが嫌だった」とのことですから、驚くしかありません。

看取りが主要な役割のひとつに

 事件の舞台になった横浜市の旧大口病院は、多くの終末期の患者を集めていました。一口に病院と言っても、高度な手術を行っている病院から、回復の見込みのない高齢者の医療を収入の柱としている病院までさまざまです。がんの終末期ケアに特化したホスピスもありますが、通常医療の範囲で見取りを引き受ける病院もあります。高齢者が多い多死時代を迎えて、旧大口病院と同じように終末期の患者を受け入れる病棟などを持つ病院は少なくありません。そして、こうした病院に送り込まれる高齢者は、年々、増え続けているのです。

 旧大口病院で起こったことは、殺人事件という特異な事例です。しかし、日本の終末期医療を見渡すと、今も根深い問題が多く残っています。

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富家 孝(ふけ・たかし)
医師、ジャーナリスト。医師の紹介などを手がける「ラ・クイリマ」代表取締役。1947年、大阪府生まれ。東京慈恵会医大卒。新日本プロレス・リングドクター、医療コンサルタントを務める。著書は「『死に方』格差社会」など65冊以上。「医者に嫌われる医者」を自認し、患者目線で医療に関する問題をわかりやすく指摘し続けている。

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