森本昌宏「痛みの医学事典」
医療・健康・介護のコラム
原因不明のめまい・肩こり・頭痛 医師は「自律神経失調症でしょう」…治すには?
疲れやすく、めまい、不眠、肩こり、頭痛、手や脚のしびれ、 動悸 、胸部圧迫感、腹痛などの自覚症状があるものの、さまざまな検査によっても原因となる異常や病変が見つからない。医師に診断を求めたが、「自律神経失調症でしょう」と言われた。そのような経験を持つ方は少なくはないと思われる。
思春期、妊娠期間中、更年期の女性に多く
「自律神経失調症」での“自律神経”とは、自分の意志で手足などを動かす神経とは異なり、自分の意志とは無関係に、体の内部からの情報や外部からの刺激に反応しながら生命を維持するために働く神経のことである。自律神経には交感神経(主に体を緊張させる)と副交感神経(主に体をリラックスさせる)があり、両者の微妙なバランスによって各臓器の機能を調節し、生命活動の恒常性を維持しているのである。たとえば、スポーツをしている時には、全身に多くの酸素を供給できるように交感神経が心拍数を上げる指令を出し、酸素量が十分になれば副交感神経が心拍数を下げるように働いている。
この二つの神経のバランスは極めて微妙であり、体の外部環境の変化に伴うストレスや体の内部環境の変調によって、そのバランスが崩れることがある。結果、自律神経の失調によるとの判断に至る症状を生じることになるのだ。
自律神経失調症の発症には、ストレスが大きく関与する。男性では心理的、社会的ストレスの影響を最も受けやすい壮年期に多くみられる。女性の場合には、思春期、妊娠期間中、更年期などに多く、その頻度は男性よりも圧倒的に高い。特に女性の思春期には、受験などの外部環境の影響に加えて、急激な身体的成長、内分泌系などの内部環境の変化に対して自我機能が対応しきれないために発症しやすいのだ。
いずれにしても、ストレスは“万病のもと”である。ストレスが大脳辺縁系を中心とする部位に変化をきたして、感情や自律神経系に悪影響を及ぼすのである。
“不定愁訴”の患者さんに用いられる病名?
さて、東邦大学心療内科が、全国の医師1万5500人を対象として行った調査によれば、ストレスが関連していると考えられる病気に対して用いる病名では、「自律神経失調症」が最も多く、実に71%を占めたとのことである。さらにその診断基準としては、「不定な症状を訴え、それに見合った所見が得られない」場合とする医師が多かった。
このことは、自律神経失調症との病名は“不定愁訴”を呈する患者さんに対して便宜的に用いられており、そのなかには「心身症」などの病態をも含まれていることを示している。換言するならば、自律神経失調症との診断は、直接的に自律神経のアンバランスを指し示しているのではなく、精神的な要素の関与が大きい場合にも用いられているのでややこしい。
1 / 2
【関連記事】
※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。
※個人情報は書き込まないでください。