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ココロブルーに効く話 小山文彦

医療・健康・介護のコラム

【Track20】夜間救急の現場から 理不尽なクレーム対応がもたらす不眠と動悸

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 私は総合病院勤務が長かったため、夜間の救急当直医を務めた経験も少なくありません。特に地方の総合病院では、医師の数が十分でないところも多く、専門の科を問わず、全科の医師が輪番で夜間救急対応を担います。日中は自身の専門領域、そして夜間に救急業務にあたることは重い責任を感じますが、ろくに眠れないまま、翌日の診療に向かうのは、医療安全上も、そして医師の健康管理上も好ましくありません。特に夜間救急では、多様な疾患を診るだけではなく、時には受診者への対応に苦慮することもあり、医療従事者のストレス対策上の課題にもなっています。

深夜の救急現場に運ばれてきた患者

【Track20】夜間救急の現場から 理不尽なクレーム対応がもたらす不眠と動悸

 当時、私が勤めていた総合病院は、地域の基幹病院だったため、外来、入院、救急のすべてが忙しい病院でした。外科系と内科系の診療科は、ほぼすべてそろっていましたが、どの科も医師の数にゆとりがなく、50歳代以下のほとんどの医師は毎月数回の夜間救急当直を担っていました。出身大学も同じ医師が多く、その仲間意識もあり、不平不満を(あまり)言わず「全員で頑張ろう」といった士気の高い職場でした。どの科の医師が当直でも、応援が必要な時は、各科の待機医が駆けつける態勢が整っていました。

 忙しいながらも他科の医師らと協力しあえる環境だったからこそ、私も厳しい業務にも当たることができたと思います。

 ある夜のことでした。その日の救急当直医は赴任して間もない、内科系の若手A医師でした。研究が中心だった大学とは異なり、夜間救急に来院した方の内科系の疾患はすべて、まず彼一人で診療に当たらなければなりませんでした。

 「○○消防から、意識不明の20代男性、入ります」とコールがあり、A医師と看護師2人が救急室で待ち受けます。救急隊員がストレッチャーで搬送し、患者さんが救急室に入ってきました。隊員の説明と経過からは、多量飲酒後の意識低下で、急性アルコール中毒の様相でした。

 A医師は、てきぱきと全身状態を見極め、必要な血液検査などをオーダーし、大量のアルコール摂取によって起こっている低血糖を改善するための点滴を看護師とともに始めました。 嘔吐(おうと) 物で 誤嚥(ごえん) させないための体位保持、万一の急変時への備えなども整え、経過観察に入ったところで、再び彼の院内電話が鳴りました。

 「△△消防です。■■ホテルで宴会中、頭痛を訴えた後嘔吐し、意識低下した50代男性。受け入れ可能ですか?」

 「わかりました。すぐに来てください」とA医師は電話を終え、「脳出血、くも膜下出血か」と鑑別すべき疾患をいくつか推察しつつ、脳外科の待機医と放射線科技師に連絡し、準備を整えていきました。

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小山 文彦(こやま・ふみひこ)

 東邦大学医療センター産業精神保健職場復帰支援センター長・教授。広島県出身。1991年、徳島大医学部卒。岡山大病院、独立行政法人労働者健康安全機構などを経て、2016年から現職。著書に「ココロブルーと脳ブルー 知っておきたい科学としてのメンタルヘルス」「精神科医の話の聴き方10のセオリー」などがある。19年にはシンガーソング・ライターとしてアルバム「Young At Heart!」を発表した。

 今年5月14日には、新型コロナの時代に伝えたいメッセージを込めた 新曲「リンゴの赤」 をリリースした。

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