文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

武井明「思春期外来の窓から」

 揺れ動く思春期の子どもたち。そのこころの中には、どんな葛藤や悩みが渦巻いているのか――。大人たちの誰もが経験した「10代」なのに、彼らの声を受け止め、抱えている問題を理解するのは簡単ではありません。今を懸命に生きている子どもたちに寄り添い続ける精神科医・武井明さんが、世代の段差に橋をかけます。

医療・健康・介護のコラム

「欲しくて産んだわけではない!」母の言葉に…リスカを繰り返した高1女子 回復に向かったきっかけは

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 思春期の子どもたちは、親に口答えをしたり、反抗的になったりします。時には、親子で言い争いになることもあるのではないでしょうか。そんな時のお母さんの言葉にひどく傷ついた女子高生がいました。

夫婦げんかをして家出を繰り返す母

「欲しくて産んだわけではない!」母の言葉に…リスカを繰り返した高1女子 回復に向かったきっかけは

 琴音さん(仮名)は、自傷のために思春期外来を受診した女子高生です。

 家族はお父さん、お母さん、5歳年下の弟さん、それに琴音さんの4人です。琴音さんは、小さいころから手のかからない子でした。幼稚園では、よく年下の子の世話をしていたそうです。小・中学校時代はおとなしく、まじめな子でした。

 でも、琴音さんの家の中は大変な状況でした。お父さんとお母さんが頻繁に夫婦げんかを繰り返していました。けんかの後、お母さんは家を飛び出し、数日間帰って来ないこともありました。その間、琴音さんは、お母さんに代わって弟さんの面倒をみていました。

 高校に入学した後も、お父さんとお母さんの関係は相変わらずで、お母さんは度々、家から出て行ってしまいます。

「愛されてない」と思って

 高校1年の夏休み明けから、琴音さんは、前腕をカミソリで自傷するようになりました。そのため、お父さんと一緒に思春期外来を受診しました。

 琴音さんはうつむいたままで、主治医からの質問には最低限のことしか答えてくれません。左前腕には多数の自傷痕が認められました。親が同伴しての通院は難しいということで、琴音さんだけが、2週間に1度の割合で通院することになりました。それでも琴音さんは、嫌がることなく定期的に通院してくれました。

 通院を始めて1か月が () ったころ、琴音さんは診察室で、

 「お父さんとお母さんは夫婦げんかばかりなんです。それも私と弟がいる前で。見たくもないので、自分の部屋にこもるけど、どなり声が聞こえてきます。耳をふさいで耐えてきたんです。そして、たいていはお母さんが家を飛び出してしまい、しばらく帰ってきません」

 と涙を流しながら話してくれました。

 通院を始めて3か月後、琴音さんは、

 「高校に入学して間もなくの時期に、お母さんと私がけんかになりました。お父さんとけんかして家を出て行ったお母さんが、ちょうど帰ってきた時でした。『私と弟を置いていなくなってしまって、お母さんは心配じゃないの?』と問い詰めました。お母さんはアレコレと言い訳していましたが、私は頭にきて『どうして私を産んだの?』とキレてしまいました。そうしたら、お母さんに『欲しくて産んだのではない!』と言い返されました。ひどくショックで、死にたくなりました。お母さんから愛されてないと思いました。この場面のことを思い出すとつらくなり、リスカするようになったんです」

 と、この時も泣きながら話してくれました。

1 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

takei-akira_prof

武井 明(たけい・あきら)

 1960年、北海道倶知安町生まれ。旭川医科大学大学院修了。精神科医。市立旭川病院精神神経科診療部長。思春期外来を長年にわたって担当。2009年、日本箱庭療法学会河合隼雄賞受賞。著書に「子どもたちのビミョーな本音」「ビミョーな子どもたち 精神科思春期外来」(いずれも日本評論社)など。

武井明「思春期外来の窓から」の一覧を見る

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、読売新聞オンライン、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事