文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

武井明「思春期外来の窓から」

医療・健康・介護のコラム

「欲しくて産んだわけではない!」母の言葉に…リスカを繰り返した高1女子 回復に向かったきっかけは

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

「男性」と別れた母は家出をしなくなり…

 琴音さんは、その後も定期的に通院し、診察のたびに診察室で泣きました。それでも、高校3年になってからは、時々、お母さんと一緒に通院するようになりました。親身になって相談にのってくれる友だちもいるようでした。高校卒業時には、自傷はほとんどみられなくなりました。

 高校卒業後、琴音さんは病院の介護助手として元気に働いています。それでもたまに、一人で思春期外来を受診します。

 その時の琴音さんは、

 「私がリスカしていたころ、どうもお母さんには好きな男性がいたようでした。それで夫婦げんかの後に家を出て、その男性のところに行っていたみたいなんです。今は、その人と別れたようで、家から飛び出すこともありません。そのかわり、私の化粧や服装にすごく口うるさいし、職場のことをアレコレ聞いてくるし、困っています。でも、こんなに私に関心を向けてくれることは、これまでありませんでした」

 と、うれしそうに話してくれました。

「どうして産んだのか?」の本当の意味

 小学生のころまでは親の言うことを比較的よく聞いていた子どもたちが、思春期になって、突然、反抗的になり、口答えし、時には親と口論するようになります。親からの精神的な自立の表れといえるでしょう。でも、子どもたちの言動に対して、親としてどう反応してよいのかに困り、言葉に詰まる場面も少なくないのではないでしょうか。

 琴音さんのように、お母さんとの言い合いの最中に追い詰められて、「どうして産んだのか?」などと挑戦的なことを言うこともあります。そう言われたお母さんは、「欲しくて産んだわけでない!」と、つい応酬してしまうことがあるかもしれません。売り言葉に買い言葉、その場の勢いで出てしまうこともあるでしょう。しかし、この言葉は、子どもたちの存在そのものを否定することになってしまいます。

 琴音さんのケースを見ても、この家に生まれてきたことを嘆いているのでは決してないのです。けんかばかりするお父さんとお母さんを見て、「自分がこの家で存在する意味は何なのか」「自分はこの家で何を期待されているのか」を確かめたかったのです。でも、琴音さんのお母さんは、子どもの悩みにしっかりと向き合うこころの余裕がありませんでした。

お父さんとお母さんの生き方はこれでいいの?

 「どうして産んだのか?」という子どもたちの挑戦的な言葉には、もうひとつの「大切な意味」が込められています。子ども自身の問題にとどまらず、今の親のあり方も問うているのだと思います。「お父さんとお母さんの生き方は本当にこれでいいのか」と。

 思春期に至った子どもたちは、普段、大人が棚上げにしている生きる意味や自分が存在する意味について、真剣に考えているのです。ですから、彼らの挑戦的な言動から、そのような彼らの苦悩を読み取ることが求められます。

 そして、われわれ親自身も、子どもたちの言葉を通して、自分たちの生き方を改めて考え直すとともに、夫婦関係についても今一度、立ち止まって見つめ直すことが必要なのだと思います。それが、思春期の子どもとひとつ屋根の下で過ごし、彼らを育てる親としての務めではないでしょうか。(武井明 精神科医)

2 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

takei-akira_prof

武井 明(たけい・あきら)

 1960年、北海道倶知安町生まれ。旭川医科大学大学院修了。精神科医。市立旭川病院精神神経科診療部長。思春期外来を長年にわたって担当。2009年、日本箱庭療法学会河合隼雄賞受賞。著書に「子どもたちのビミョーな本音」「ビミョーな子どもたち 精神科思春期外来」(いずれも日本評論社)など。

武井明「思春期外来の窓から」の一覧を見る

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、読売新聞オンライン、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事