Dr.三島の「眠ってトクする最新科学」
医療・健康・介護のコラム
寒くなると体調を崩し、炭水化物や甘いものがほしくなる「冬季うつ病」を知っていますか?
寒い時期に生じやすい体内メカニズムの変化
冬季うつ病は主に脳内の脳内伝達物質であるセロトニンの機能低下によって発症すると考えられています。しかもその機能低下の原因が冬季の日照量の減少であることが分かっています。
目から入る太陽光は物を見るためだけではなく、一部は体内時計(脳内の 視交叉上核 )を経由して交感神経を活発にし、血圧や心拍数を上げたり、セロトニン機能を維持したりするなど、さまざまな生体機能を調節しています。日が短くなる冬季には1日の日照量が減るため、健康な人でもセロトニン機能が低下しますが、冬季うつ病の患者さんはその度合いが大きいのです。とりわけ緯度が高い国・地域ほど冬季に日照量が減るため、北欧やカナダ、日本国内では北海道や北日本の日本海側での発症率が高いことが知られています。
さて、なぜ冬季うつ病の患者さんは炭水化物や甘い物が食べたくなるのでしょうか? 簡単に説明すると、炭水化物や甘い物を食べて血糖値が上がると、 膵臓 からインスリンが分泌され、その作用によってセロトニンの原料となるトリプトファンが脳に入り込みやすくなるのです。炭水化物や甘い物を食べたくなるのは、低下したセロトニン機能を補おうとして無意識に行う生体防御反応であると言えます。
不調の原因に気づきにくいので
このように冬季うつ病は一般的なうつ病と異なり、日照量の減少という季節要因で発症する珍しいタイプのうつ病です。夏と冬で睡眠や食欲が大きく変化し、寒い季節になると生活に支障が出てしまう人が、成人の約2%程度いることが国内の調査で明らかになっています。ただし、冬季うつ病で医療機関を受診する人は多くありません。原因が日照量によって生じていると気付かず、人知れず我慢をしている人が大勢いると考えられています。
意識的に外に出て太陽光をよく浴びることで症状が軽くなる人もいます。人工光を放つ装置を使って、毎日30分~1時間ほど光を浴びる高照度光療法という治療法もあります。また、うつ症状が強い場合には冬季間だけ抗うつ薬を活用するのもよいでしょう。この季節、原因不明の億劫さなどに悩まされているのなら、医療機関で相談することをお勧めします。(三島和夫 精神科医)
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