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ウイルスを使ってがん細胞を破壊する…悪性脳腫瘍の新薬承認 生存率高められる可能性

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 特殊なウイルスを使った悪性脳腫瘍の新薬が条件付きで承認され、今年8月、公的医療保険の対象となりました。ウイルスを使ったがん治療薬が国内で実用化されるのは初めてで、今後、生存率を高められる可能性があります。(安藤奈々)

がん細胞だけ破壊

 脳腫瘍は、脳の細胞や神経などにできるがんです。手術でがん細胞を切除したり、放射線を当ててがんを小さくしたりして治療します。抗がん剤もありますが、悪性度が高い場合、がんが増殖するスピードが速く、治療が難しいのが現状です。

 新たに開発されたのは、がん細胞だけで増えて破壊する特殊なウイルスを使った薬「テセルパツレブ」です。感染力が強く、細胞を殺す力が比較的強い「単純ヘルペスウイルス1型」の遺伝子を改変しています。新薬の開発に関わった東大医科学研究所教授の藤堂 具紀ともき さんは「周囲の正常な細胞は傷つけず、がん細胞に対する免疫を高めることができます」と説明します。

 この薬は、直接、腫瘍に注入します。頭を器具でしっかり固定し、頭蓋骨に小さな穴を開けます。そこから針を刺し、腫瘍のある部分に投与します。1回目と2回目は5~14日の間隔、3回目以降は4週間ごとに、最大6回注入します。

 新薬の対象は、「 膠芽腫こうがしゅ 」など、悪性度が高い「神経膠腫」の患者です。放射線治療など、標準的な治療を実施しても、十分な効果が得られなかったり、再発してしまったりした場合に使います。

治療データ集積へ

 治験では、悪性神経膠腫のうち、膠芽腫の患者19人に新薬を投与し、1年後の生存率を調べました。このうち13人を解析したところ、生存率は92・3%でした。膠芽腫の場合、標準的な治療をしても、1年後の生存率は15%程度と考えられています。従来の治療法と比べて高い結果が示されたことを受け、今回承認されました。

 ただし、治験に参加した人が少なかったため、今後も新薬で治療した患者のデータを集め、7年を期限に有効性と安全性を確認していくことになっています。

 横浜市の会社役員の男性(58)は、2016年に膠芽腫と診断され、手術や放射線治療を受けました。しかし翌17年に再発し、新薬の治験に参加しました。同年に計6回新薬を注入しました。

 それからこれまで4年半の間、転移や再発はありません。投与すると、翌日に高熱が出ましたが、その後、特に副作用に悩まされることはなかったと言います。男性は「新しい薬のおかげで今も仕事を続けられています。本当に幸せです」と話しています。

 がんのウイルス療法に詳しい鳥取大准教授(遺伝子治療学)の中村貴史さんは「脳腫瘍の治療は難しいですが、新薬が登場したことで選択肢が増えました。ただ、今後も治療の効果や安全性について慎重に検証していくことが重要です」と指摘しています。

 新薬は今のところ、治験を実施した東大医科研病院(東京都港区)でのみ使用されています。製造販売元の第一三共は順次、ほかの医療機関でも投与できるようにしていきたいとしています。

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