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Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

「がんサバイバー」ってどういう意味?

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「がんサバイバー」ってどういう意味?

イラスト:さかいゆは

 がんサバイバーとは、がんを経験しながら生きている人たちのことです。

 私も作成にかかわっている「がんサバイバーシップガイドライン」(国立がん研究センター編)では、「がんサバイバーシップ」を、「がんの状態によらず、がんと診断された後のすべての経験」と定義し、「がんの診断を受けた人は、その瞬間から生涯にわたって、がんサバイバーである。家族、友人、ケアにあたる人々も、当人のサバイバーシップ体験から強い影響を受けるため、がんサバイバーに含まれる」としています。

治療を終えた後も悩みや不安が

 がんは、日本人の2人に1人が生涯のうちに一度は経験する病気で、本人ががんを経験した「がんサバイバー」は、日本に約700万人いると推計されています。がん経験者の家族や友人も含めるのであれば、誰もが「がんサバイバー」であると言っても過言ではありません。

 「がんサバイバー」のうち、現在治療を受けている方が「がん患者」で、早期がんで何らかの治療を受けた患者さんは、その治療を終えたところで「がん患者」を卒業することになります。

 早期がんの術後化学療法をやり終えた患者さんには、次のようにお話しします。

 「これでご卒業ですね。治療はつらかったと思いますが、きちんとやりとげました。再発の可能性はゼロではありませんが、やるべきことはやったわけですので、これからは、がんのことは考えすぎず、自分らしく過ごしていくのがよいと思います。『がん患者』ではなく、『がんサバイバー』として、新たな人生を歩んでいってくださいね」 

 がん治療を終えたがんサバイバーの方々にも、悩みや不安はたくさんあります。治療の後遺症がずっと続いたり、再発などの不安があったり、元通りの生活には戻れなかったりと、様々な問題を抱えています。「がん患者」を卒業したとしても、「がんサバイバー」は、身体的、精神的、社会的に、適切なケアを必要としています。

広がるがんサバイバーシップケア

 最近は、がんサバイバーシップケアとして、様々な取り組みが活発に行われています。がん研有明病院でも、以前より様々な部署でいろいろな取り組みがなされていましたが、2021年5月に、この取り組みを病院全体で促進するように、組織改編がなされました。がん患者やがんサバイバーの支援を担当する新しい部署として、「患者・家族支援部」ができ、私がその担当者となりました。「心のケア」「就労などの社会的支援」「がん患者の家族のケア」「思春期・若年成人(AYA世代)患者のケア」「アピアランス(外見)のケア」「 妊孕(にんよう) 性支援(妊娠出産のサポート)」「リンパ浮腫のケア」「皮膚、人工肛門・人工 膀胱(ぼうこう)排泄(はいせつ) のケア」など多岐にわたる取り組みを行っています。

 冒頭に紹介した「がんサバイバーシップガイドライン」のプロジェクトでは、がんサバイバーに関して方向性を示していくべき重要な課題として、「二次がん、がん再発、転移」「かかりつけ医とがん専門医の連携」「身体活動」「食と栄養」「禁煙」「ワクチン接種」「心血管系への影響」「気持ちのつらさ」「睡眠障害」「痛み・しびれ」「就労」の11項目を抽出した上で、それぞれに関するガイドラインづくりを進めています。この中で、私が特にかかわっているのは、「身体活動」のガイドラインで、がんサバイバーに対して、身体活動や運動を勧めるべきかどうかを、世界中の研究論文を検索して検討し、勧める方向での結論に至っています。また、乳がんのサバイバーの方に協力していただいて、運動してもらうことによって身体症状や生活の質が向上するかどうかをみる臨床試験も行っています。

 がん患者やがんサバイバーが増加する中で、医療として、社会としてできることを考えていこうという機運が高まっていると言えます。

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高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大付属病院で研修後、2000年より東京共済病院呼吸器科医員、02年より国立がんセンター中央病院内科レジデントとして経験を積んだ。05年に東京共済病院に戻り、「腫瘍内科」を開設。08年、帝京大学医学部付属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に最年少部長として赴任し、「日本一の腫瘍内科」を目標に掲げた。10年間の虎の門時代は、様々ながんの薬物療法と緩和ケアを行い、幅広く臨床研究に取り組むとともに、多くの若手腫瘍内科医を育成した。20年には、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、かつてのヨミドクターの連載「がんと向き合う ~腫瘍内科医・高野利実の診察室~」をまとめた、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)がある。

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