いつか赤ちゃんに会いたいあなたへ
医療・健康・介護のコラム
「あなたは不妊です」と言われない曖昧さとの闘い…原因不明不妊に悩んだ6年
1年休んだ不妊治療を再開 有名クリニックへ
様々な葛藤を抱えながらも、Aさんは治療を休み、当時目標としていた資格試験の勉強に没頭することで、だんだん元気を取り戻していきました。しばらく不妊治療から離れようと決意し、妊活中は控えていたお酒も解禁して、できるだけ夫婦ふたりでの生活を楽しむように意識して過ごしたそうです。
そうして約1年がたち、Aさんが32歳になったころ、いつものように二人でお酒を楽しんでいた時に、夫がふと「俺だって本当は早く赤ちゃんに会いたいよ」とつぶやいたのを聞いて、あらためて子どもについて考え直そうと思ったそうです。そこで夫婦で話し合いをして、「もう一度、不妊治療を頑張ってみよう」と治療を再開することになりました。
治療の再開にあたって、Aさん夫妻は心機一転、地元で有名な不妊治療専門医へ通うことにしました。「ただ、仕事との両立は本当にしんどかったです」とAさんは語りました。「前の病院は会社から近かったので通院しやすかったんですけど、今回の病院は家の近くで、会社まで50分ほどかかったんです。とても午前休だけでは通院できないし、仕事の都合によっては急きょ通院をキャンセルせざるを得ないこともありました」
また人気な病院だけあって待ち時間もすごく長かったため、Aさんは完全に仕事と治療の両立に行き詰まってしまったそうです。たまたま繁忙期ともかさなり、どうしても通院できなくなってしまい、仕方なく転院することにしました。
会社近くのすいているクリニックに転院
患者にとって、望まぬ転院はデメリットが大きいです。これまでの検査結果はもちろん、治療の経過や体質に合わせた投薬の処方など、患者自身では説明できないデータがたくさんあります。それを携えて転院できない場合が多いため、これまでの治療データが無駄になってしまう場合が多いのです。しかし、Aさんの場合は幸いなことに、そうではありませんでした。
「ちょうどそのころ、不妊治療について私が相談にのっていた元同期が妊娠したんです。その子が通っていた病院を教えてもらったら、たまたま私の会社の近くで、なによりオープンしたてで、すいていると聞き、予約しました。行ってみたらきれいなクリニックで本当にすいていたんです。でも実績も十分で、患者個人に合わせたプランを練ってくれ、通い始めてから陽性反応をもらうまで2か月しかかからなかったんです。これまでの苦労を考えたら、ほんと、自分でも信じられないぐらいスムーズにいって……。きっと病院との相性も良かったんだと思います」
多胎妊娠の苦労乗り越え、34歳で無事出産
Aさんは多胎妊娠となり、その分、様々な苦労があったとのことで、夢に描いた通りの妊婦生活ではなかったそうですが、無事に34歳で挙児に至りました。
Aさんが不妊治療中につらかったことの一つは、病院では「若いのだから大丈夫」と言われ続けながら6年も出産に至らなかったこと、そして原因が見つからないのに妊娠できなかったことだといいます。「『あなたは不妊です』と言われない曖昧さとの闘いが、本当につらかったです」と語ってくれました。
Aさんの話を聞いていると、夫との絆の深さが感じられ、それがあきらめずに治療を続けられた原動力になっていたのだと思いました。このAさん夫妻のように心を一つにし、支え合って治療に向き合えることは素晴らしく、また大切なことです。
けれど、残念なことにそういうカップルばかりではありません。話し合うことを避けてしまう夫婦も多いと実感しています。そうした時にはカップルカウンセリングを受けてみるのも一つの方法です。生殖心理カウンセラーという不妊特有の悩みを聞く専門カウンセラーもいますし、NPO法人Fineには不妊を体験したピア・カウンセラーもいますので、ぜひ選択肢に入れてみてください。(松本亜樹子 NPO法人Fine=ファイン=理事長)
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