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宮脇敦士「医療ビッグデータから見えてくるもの」

医療・健康・介護のコラム

医療政策に活用する際の落とし穴 オバマケア「再入院予防プログラム」から学ぶべきこと

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患者をより重症に見えるように記録

 さらに、「アップコーディング」と呼ばれる問題も起こりました。これは、データ上、患者をより重症に見えるように記録することです。

 同じような質の医療を提供していても、見かけの重症度を上げれば、相対的にリスク調整再入院率が下がることで、質の良い医療を行っているように見えるというからくりです。

 実際、上で述べた再入院率の減少のほとんどが、このアップコーディングによるものではという報告もあります(Ibrahim et al.,2018,JAMA IM)。

低所得者を多く診る公立病院の財政がより悪化

 さらに悪いことには、統計学的な方法で揃えた「リスク調整」は、一部の病院に思わぬ結果をもたらしました。

 このリスク調整には、様々な理由で、患者さんの収入レベルなどは入っていません。しかし、一般に貧しい人ほど、退院後の通常の医療へのアクセスが限られるなど、病院がどうしようもない理由で、再入院率が高くなることが知られています。

 そのため、リスク調整した後でも、特に、貧しい人を多く診ている病院(セーフティーネット病院といいます)は、頑張って良い医療を提供していても、再入院率が高く出てしまうことがありました。

 そのようなセーフティーネット病院は、公立病院が多く、収入が限られているため、財政状況がもともと悪かったのですが、さらにペナルティーが多くかけられ、医療の質の低下が懸念されました(Jha and Zaslavsky,2014,JAMA)。

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宮脇 敦士(みやわき・あつし)

 2013年、東京大学医学部医学科卒業、医師免許取得。せんぽ東京高輪病院・東京大学医学部附属病院で初期研修後、東京大学大学院医学系研究科社会医学専攻にて、医療政策・応用統計を専攻し、19年に博士号取得。東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学教室助教、UCLA医学部客員研究員を経て、23年7月から同大学ヘルスサービスリサーチ講座特任講師。大規模データを用いて良質な医療を皆に届けるにはどうすればよいかということを研究している。

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