森本昌宏「痛みの医学事典」
医療・健康・介護のコラム
人はどうして痛いと大きな声をあげるのか?
痛みに対処する“極意”を教えてしんぜよう。それは、「大声をあげてあんあんと泣くか、笑い転げること」、そして「知らんぷり」の二つだ。ねっ! 簡単でしょ?
あんあんと泣いた正岡子規
明治の俳人・正岡子規は、「結核性 瘻孔 」による痛みに苦しみ、死までの数年間を病床で過ごすことを強いられた。その体験を著した「 病牀苦語 」のなかに、以下のようなくだりがある。「始めは客のある時は客の前を 憚 って 僅 かに顔をしかめたり、僅かに泣声を出す位な事であったが、後にはそれも我慢が出来なくなって来た。友達の前であらうが、知らぬ人の前であらうが、痛い時には、泣く、 喚 く、怒る、 譫言 をいふ、人を怒りつける、大声あげてあんあんと泣く、したい放題のことをして最早遠慮も何もする余地がなくなって来た……」。大の大人が「あんあん」と泣いてしまうのだから、その痛みの激しさは想像に難くない。
結核性瘻孔では「肺結核の原因である結核菌が、血流に乗って体中に移動して 膿 が出る穴を作る」状態となる。背骨で起こった場合が「脊椎カリエス」である。
無意識に繰り返す「緊張と弛緩」
さて、人は痛いと、どうして大声をあげて泣くのだろう?
まずは大声を出すことがストレスの解消となる。私もカラオケでは、西城秀樹さんの曲を大声でがなってしまうが、スッキリしちゃうんだな、これが。大声で歌うことが、息を止めて筋肉に力を入れ、次いでスッと力を抜くことを繰り返す「緊張 弛緩 法」を行うことになり、ストレス解消につながっているのだ。
これと同じく、泣いている時にも、人は無意識に緊張と弛緩を繰り返しているのである。さらに、大声で泣くとそちらに意識が移り、痛みに集中しなくなることも期待できる。これを「聴覚鎮痛法」と呼ぶ。つまり、人は誰に教えられたわけでなく、自然にこれらの鎮痛法をマスターしているのだ。
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