変形性膝関節症で人工関節の手術を受ける予定だが、病院選びに悩む。手術件数で選ぶか、総合病院か?
重度の変形性膝関節症で人工関節置換手術を受ける予定です。どの病院で手術を受けるかで迷っています。ひとつは整形外科の専門病院で全国でも圧倒的な手術数を誇っています。もう一方は総合病院で年間100件程度の手術数です。前者は入院期間が平均10日前後と短く、退院後の日常生活に少し不安を感じます。後者は3週間程度の入院で、つらい期間を病院で過ごせるようです。また、膝の他に不整脈、高血圧、食道炎などの持病もあるので、総合病院の方が安心できる気もしますが、手術実績のことを考えると決心ができません。病院の選択にあたって、アドバイスをお願いいたします。(男性、55歳)
手術件数など医療機関の経験値は病院選びの目安になる
福井尚志 東京大学総合文化研究科教授(整形外科専門医)
変形性膝関節症は中高齢の方の膝の痛みの原因のほとんどを占め、一言でいえば軟骨が次第にすり減る病気です。すり減り方が少ない初期には痛みは一時的で、運動療法や湿布、飲み薬や関節内へのヒアルロン酸の注射などで症状が改善することが多いのですが、軟骨のすり減りが進んでくると次第に痛みが治りにくく持続するようになります。ただ、膝の痛みは個人差が大きいのもこの病気の特徴です。
膝の軟骨がすり減る病気だが、すり減っても痛みが出ないことも
軟骨は普通のレントゲンでは映りませんので、関節の隙間としてとらえられます。病気が進むと関節の隙間が次第に狭くなり、やがて隙間が全くなくなるまでになります。軟骨が完全にすり減ってしまうと強い痛みが生じそうですが、実際にはこの状態でもあまり痛みがないことも多く、かなり進んだ変形性膝関節症の患者さんでも6割の方は大きな支障なく日常生活を送ることができていたという調査結果もあるほどです(Felson DTほか.Arthritis Rheum 30:914-8, 1987)。
ただ軟骨のすり減りが進んでしまった人の中にはつらい膝の痛みが続いてふだんの生活に支障を来している方も少なくありません。末期の変形性膝関節症と診断されても、まずは運動療法や薬、注射による治療を最低半年は試していただきたいのですが、それでもつらい痛みが続いている場合には、膝の関節を金属の関節に置き換える人工膝関節置換術や、膝の形を整える骨切術といった手術が行われることになります。
手術を受ける病院をどう選ぶ?
病院選びですが、手術や術後の管理、リハビリについては経験も大事ですので、変形性膝関節症の手術を定期的に行っている病院の方が安心だと思います。特に病気がだいぶ進んで、関節の変形が強かったり、動きが極端に悪かったりするケースでは専門の病院を受診された方がよいでしょう。
ご質問の方の場合、そうした観点からどちらの病院で手術を受けられても大きな違いはないのではないかと思います。内科の持病が心配材料の一つになっておられるようですが、高血圧や食道炎はよくある病気ですので、特殊な状態でない限りどちらの病院でも対応可能と思います。不整脈については詳細がわかりませんのでお答えしにくいのですが、とくに危険なタイプの不整脈でなければ、やはりどちらの病院でも対応できると思います。
手術で受診する際はかかりつけの内科医から紹介状を
また、病院の手術件数については、総合病院でも年間100件程度も人工膝関節置換術を行っているのであれば手術もその後のケアも相当に慣れているはずですから、手術件数の違いも病院を選ぶ理由にはならないと思います。入院期間の長短や通院の便宜などを考えて病院を選ばれるのでよいのではないでしょうか。なお、現在かかっておられる内科の先生には手術を受けることを伝えて紹介状(診療情報提供書)を用意していただき、病院を受診される際に持参されることをお勧めします。
福井 尚志(ふくい・なおし) 東京大学大学院総合文化研究科教授。1960年生まれ。東京大学医学部卒。整形外科専門医。医学博士。独立行政法人国立病院機構相模原臨床研究センター客員研究員。日本整形外科学会、国際変形性関節症学会会員。膝関節の疾患を専門とし、特に変形性膝関節症については20年以上にわたって研究を続けている。『東大教授が本気で教える 「ひざの痛み」解消法』(中央公論新社、1540円)を監修。