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高齢者も障害者も障害ある子も一緒に…「共生型サービス」が広がらない理由

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事故防止に注意必要 職員増は費用ネック

 介護が必要な高齢者にも、障害を抱える大人や子どもにも、同じ事業所でサービスを提供する――。2018年4月に始まった「共生型サービス」は国の新たな試みだが、取り組む事業所はまだわずかだ。現場を訪ねると、理由の一端が見えてきた。(板垣茂良)

開始から3年半

高齢者、障害者、障害ある子も一緒に…「共生型サービス」広がらず

この日のレクリエーションはテーブルホッケー。子どももお年寄りも一緒に楽しんだ(千葉市で)

「お手柔らかに頼むよ~」「頑張ってね!」

 千葉市の社会福祉法人「鳳雄会」が運営するデイサービスを訪ねると、高齢者10人と子ども2人が、厚紙で作った円盤を打ち合うテーブルホッケーを交代しながら楽しんでいた。男児(7)と対戦した女性(90)は「ひ孫のような世代と一緒に時間を過ごせるのは楽しいね」と笑顔だった。

 特別養護老人ホーム「ゆうゆう苑」に併設された施設で、元々は高齢者向けのデイサービスとして運営していた。自閉症や学習障害のある小学生も受け入れる共生型施設に変更したのは2年前の夏。障害を持つ子どもを下校後や夏休みなどの間に預かる「放課後デイサービス」への需要が高まり、同法人系列の施設でも利用を希望する人が急増していたことがきっかけだった。

 ゆうゆう苑の小岩洋子施設長は「障害のある子どもやその保護者を支える受け皿になりたいと思った」と、高齢者向けから共生型への切り替えを決めた理由を説明する。

 ただ、始めてみると課題もわかってきた。

 例えば、室内を走り回る子どもが、ゆっくりとしか歩けない高齢者にぶつかりそうになること。障害の特性でじっとしているのが難しい子もいる。動きのスピードが違う高齢者と子どもが同じ空間で過ごすためには、より注意が必要になる。

 ゆうゆう苑のデイサービスは定員15人に対して、職員は3人。事故を防ぐには増員が効果的だが、スタッフを手厚く配置すればその分、人件費もかさむ。そもそも、求人を出しても人材を確保することが難しくなっている。「高齢者と子どものふれあいという共生型の理念は美しいが、現実はなかなか大変だ」(小岩施設長)

 放課後デイサービスは利用の見込みを立てにくい点もネックとなる。

 同施設の介護福祉士、水谷義仁さん(51)は「子どもの場合、体調や家庭の事情で直前に休むと連絡があったり、1か月まったく来なかったりということが高齢者より多い」と運営の難しさを指摘する。サービスを提供できなければ収入にならないため、共生型の経営を安定化させる上で課題になっているという。

得られる対価 低く設定

 東京都国分寺市の「デイオアシスまほろば」は、19年4月に高齢者と障害者の共生型のデイサービスとなった。16年に高齢者向けの施設として始めたが、「障害者にも充実したケアを提供したい」として転換。現在は高齢者や障害者ら計27人が登録している。

 精神障害がある同市の女性(44)は、20年4月から通い始めた。以前は洋菓子を製造する就労支援施設で働いていたが、仕事や人間関係に疲れて辞めたという。

 ここでは週4日、朝から夕方まで過ごす。高齢者の話し相手になったり、散歩の際はスタッフと一緒に見守りを積極的に行ったりしている。「自分なりの役割も見つけた。ここにいることが心地いい」と話す。

 ただ、ここでも、共生型サービスの経営面での難しさに直面しているという。

 「手厚い介護が必要な要介護5の高齢者を受け入れた場合、国の定めた公定価格は1日あたり約1万5000円。しかし、障害者の場合、重度の人で約8000円程度。事業者が受け取る単価が違いすぎる」。デイオアシスを運営する一般社団法人一粒福祉会の佐々木美知子・代表理事は指摘する。

 共生型サービスは、人員配置や設備などについて、高齢者施設、障害者施設のいずれかの設置基準を満たす事業者なら、都道府県などの自治体に申請すれば、指定を受けて始めることができる。

 ただ、デイオアシスのように、高齢者施設の基準を満たした施設が共生型に転換したケースだと、障害者にサービスを提供した際に得られる対価が、一般的な障害者施設よりも低く設定されている。

 共生型サービスを現在よりも広げていくためには、こうした点への対応も課題になりそうだ。

全国で856事業所 知名度向上が課題

 共生型サービスに取り組む事業所はまだ少ない。厚生労働省によると、全国にわずか856事業所(2020年10月現在)だ。

 ただ、様々な可能性を秘めたサービスではある。

 例えば、障害者向けデイサービスに通っている人が65歳以上になった時、高齢者向けのデイサービスに移るケースがある。介護保険の対象に切り替わるため、という制度上の都合だ。しかし、利用している事業所が最初から共生型なら、利用者はそのまま、慣れたデイサービスに通い続けることができる。

 また、人口減少が進んで、高齢者も障害者も少なくなった地域では、施設を共生型に転換することによって利用者を確保しやすくなる面もある。施設経営の安定につながるなど、将来の課題を先取りした取り組みだと言える。

 厚労省認知症施策・地域介護推進課の担当者は「共生型サービスの制度が、まだ自治体や事業者に知られていない。知名度の向上に取り組みたい」としている。

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