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がん患者団体のリレー活動報告

医療・健康・介護のコラム

NPO法人クレブスサポート

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 佐賀県は長年、肝臓がんの死亡率が「全国ワースト1」という不名誉な記録を続けてきました。子宮 (けい) がんや乳がんの死亡率も高く、他の臓器のがんを含めた全がんの死亡率でも全国平均を上回っています。このような状況に手をこまねいて見過ごしてよいものか、と立ち上がったのが「NPO法人クレブスサポート」です。「クレブス」はドイツ語で「がん」という意味です。医師と市民有志によって2006年に設立されました。

 行政、大学、医療機関、患者団体などの協力を得ながら、がんにならないための「予防啓発活動」、がん患者やその家族を地域で支える「がんサロン」、がん体験記などの本の出版、子どもたちにがんについて教える「がん教育」などの活動を行っています。

NPO法人クレブスサポート

子どもたちががんについて学ぶ「がん教育」の授業。講師は、佐賀大学医学部付属病院の木村晋也副病院長(2019年2月、佐賀市立赤松小学校で)

患者や家族を支える「がんサロン」

 私たちのNPO法人は、がん医療の発展と患者支援、検診受診の啓発を目的に設立されて以降、患者とその家族らが交流する「がんサロン」の運営、設立を支援する一方、「がんピアサポーター養成講座」を開くなど人材育成にも取り組んできました。

 ただ、佐賀県では、市民公開講座や企業出前講座など、様々ながん対策の啓発活動が展開されてきましたが、がん死亡率は、なかなか改善されませんでした。肝がん死亡率はあいかわらず全国ワースト1のまま。乳がんや子宮頸がんなど女性のがんもワースト上位でした。

「幼少時からのがん教育に舵を切る」

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がん体験者ががん教育を行うための知識と技術を学ぶ「がん教育支援員養成講座」。講師はクレブスサポート理事長の吉野徳親氏(2017年6月、佐賀市市民活動プラザで)

 がんに対する大人の無知と無関心が大きな問題だと痛感しました。「そうだ。幼少時からのがん教育に (かじ) を切ろう」と考えたのは、クレブスサポートの吉野徳親理事長でした。

 がん教育を推進するために、「がん体験者(サバイバー)を対象に公募して養成講座を開いてがん教育支援員を育てよう」と話し合いました。折も折、正力厚生会の助成金のことを知り、2017年度、早速応募しました。

 助成金30万円と自己資金10万円余りを元手に17年6~8月の土曜日に計6回、延べ12時間の講座を開催し、20人のがん教育支援員を誕生させることができました。

 支援員たちはがんについての正しい知識を医師たちから学び、模擬授業を実施して、お互いにスキルを磨き合いました。がん診療連携拠点病院である佐賀県医療センター好生館と佐賀大学医学部付属病院に全面的に協力してもらいました。

 この年の2学期以降に支援員たちは学校現場で初めて教壇に立ち、自分のがん体験を子どもたちに話しました。当初は数校から始まりましたが、年々増え、20年は小中高校など15校に派遣するまでになりました。

佐賀県教委も「がん教育推進校」指定

 今から振り返ると、16年12月に改正された国の「がん対策基本法」の中で「がん患者の就労支援」とともに「がん教育の推進」が掲げられ、19年から小学校を手始めに全面施行の方針が文部科学省から打ち出されました。

 当時の佐賀県医療センター好生館理事長で、現在は佐賀国際重粒子線がん治療財団理事長を務める中川原章医師は、「小学生からのがん教育」の提唱者であり、今でも佐賀県がん教育に関する協議会の会長として指導的役割を果たしています。がん教育の環境は整い、私たちはまさに順風満帆の船出だったと言えます。

 佐賀県教委も国の動きに呼応し、19年から「がん教育推進校」を年間3~5校指定して研究活動を行いました。私たちも協力して公開授業や保護者講演会などに医師やがん体験者を派遣しました。

がん教育の難しさを知る

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子どもたちの率直な反応が喜びのがん体験者によるがん教育授業。講師はがん体験者の進藤和美さん(2019年2月、佐賀市立赤松小学校で)

 がん教育の模様はNHKや地元新聞などメディアにも取り上げられ、一躍脚光を浴びたものの、支援員たちの胸の内は複雑でした。

 子どもたちの感想文を読むと、「初めてがん体験者のお話を聞きました。お父さんに長生きしてもらいたいから、たばこをやめるように言います」といった小学4年生の好ましい意見があった半面、「免疫や転移といった言葉の意味が難しくて分かりません」との苦情も寄せられました。

 同じ教室にいた小児がんの子どもが話を聞いて具合が悪くなったこともありました。保護者にがん闘病中の患者がいて脱毛について触れてもらいたくなかったと後で聞かされて、冷や汗をかいたこともありました。

子ども、そして親にも行動変容促す

 支援員の一人で、がん教育に最初から関わった池田由香さんは、「当初はいろいろと面食らうことがありましたが、今は学校側と事前の協議をして子どもたちを傷つけないよう十分配慮しています。例えば、たばこの害についてもたばこを吸うお父さんが悪いのではなく、たばこが悪いのです、と話しています」と語っています。

 がん教育は、子どもたち自身の生活習慣の変容を促し、子どもたちが書いた感想文によって、今度は保護者が動かされ、家庭の次は地域へと広がって多くの人の命が救われると信じています。

NPO法人クレブスサポート

 2006年1月に設立された。行政、大学、医療機関、患者団体などの協力を得ながら、県内8か所で「がんサロン」を運営、がん患者・家族に情報交換と交流の場を提供している。子どもたちへの「がん教育」にも力を入れ、県教委とともに小中高校に医師やがん体験者を外部講師として派遣している。
 一方、がん関連図書、冊子の出版は、佐賀県在住・出身者による実名の「がん体験記」や、20年間の長きにわたって佐賀県民の悲願だった肝がん死亡率全国ワースト1脱却の道のりを記録した「い肝ばい肝!」など4冊に上る。

ホームページ  http://www.saga-ganjouhou.org/

 このコーナーでは、公益財団法人 正力厚生会が助成してきたがん患者団体の活動を、リレー形式でお伝えします。

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公益財団法人 正力厚生会

【助成団体募集】10月17日まで来年度の助成申請を受け付け中です。

 正力厚生会は1943年(昭和18)に設立され、2009年に公益財団法人となりました。「がん医療フォーラム」の開催など、2006年度からは「がん患者とその家族への支援」に重点を置いた事業を続けています。
 現在は、医療機関への助成と、いずれも公募によるがん患者団体への助成(最大50万円)、読売日本交響楽団弦楽四重奏の病院コンサート(ハートフルコンサート)を、事業の3本柱としています。
 これからも、より質の高いがん患者支援事業を目指していきます。
 〒100-8055 東京都千代田区大手町1-7-1 読売新聞ビル29階
 (電話)03・3216・7122   (ファクス)03・3216・8676
  https://shourikikouseikai.or.jp/

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