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注文と違う料理が運ばれてくることも…認知症の人が活躍 失敗を笑って許せる社会に

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 注文通りに料理が出てくる――。そんな「常識」が当たり前ではない料理店が、近年あちこちで話題です。

失敗笑って許せる社会に

糸電話でやり取りをする客(手前)と高齢者。感染対策の工夫だ(29日、大阪市此花区で)

 プロが調理し、認知症のある高齢者が注文取りや配膳を行う「注文をまちがえる料理店」。2017年に東京で始まった取り組みです。

 高齢者の方々は、注文した料理と違うものを運んでしまったり、届けるテーブルを忘れて尋ね回ったりもします。その様子を利用客が笑顔で受け入れる温かい雰囲気が注目され、全国に広がりました。

 この取り組みをコロナ禍仕様に発展させたイベントが、大阪市此花区で開かれると区役所の職員から教えてもらい、興味が膨らみました。

 イベント名は「てへぺろキッチンカー」。失敗しても「てへっ」と照れ笑いを浮かべ、「ぺろっ」と舌を出す高齢者を、お客さんもほほえましく受け入れてほしいとの願いが込められています。

 発起人の中川春彦さん(41)は、特別養護老人ホーム「ラヴィータ ウーノ」(此花区)の施設長です。自身も認知症の祖母を自宅で介護した経験があり、「入居者を施設に閉じ込めるのではなく、できるだけ外出してもらいたい」との信念を持って、運営してきたそうです。

 「注文をまちがえる料理店」の取り組みは信念にぴったりでした。SNSで知り、「大阪でもやりたい」と、19年に此花区のレストランの一角を借りて「てへぺろキッチン」を初めて開催。「認知症の入所者が接客する姿からは『自分も人を喜ばせられる』との高揚感が伝わってきた」

 2回目も開催し、手応えを深めましたが、コロナ禍が立ち塞がります。昨春に予定していた3回目は中止に。入所者の命を守るためにも、外部との接触を遮断せざるをえなくなりました。

 それでも、「地域とふれあう機会を作りたい」との思いは消えませんでした。目を付けたのが、屋外で密を作らずに食事が提供できるキッチンカー。注文を糸電話で聞き取ることで「店員」とお客さんの間に距離をとれるような工夫も凝らし、緊急事態宣言が解除された10月についに実施にこぎ着けました。

 29日に「ラヴィータ ウーノ」で開催されたイベントをのぞきに行きました。

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 「2個ください」。お客さんが焼きサバの棒ずしを注文すると、受け付け担当の 山之端やまのは 富子さん(93)は「93」と返答。すかさず、中川さんから「年は聞いてへんで」とツッコミが入り、周囲は笑いに包まれました。

 山之端さんの長女、北川幸子さん(73)は、職員に「最高の活躍ですよ」と褒められて、ニコニコと笑う母親の姿に目を細めながら、「高齢者をのけ者にしない社会になってほしい」と話していました。

 コロナ禍の取材をする中で、社会から寛容さが失われたように感じる瞬間があります。他人へのいわれのない批判や、人格までも攻撃するSNSの書き込みを目にすると悲しい気持ちになります。

 他人の立場を理解し、失敗も笑って許せる社会に――。取材を終え、そう思いを強くしました。イベントは来月6日にも此花区で開かれます。

今回の担当は

 吉田清均(よしだ・きよひと) 事件や事故、街の話題の取材に奔走。忙しくても「食事は残さず食べる」との祖母の教えは守る。

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 〒530・8551(住所不要)読売新聞大阪本社社会部「言わせて」係

 iwasete@yomiuri.com

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