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武井明「思春期外来の窓から」

医療・健康・介護のコラム

手洗い1日20回 不潔恐怖にとらわれる中2男子…不登校から救ったのは「鬼滅の刃」だった!

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ゲームとマンガ・アニメとの違い

 その後、智也君の不潔恐怖は完全には消失していませんが、精神安定剤の効果もあって、かなり軽くなりました。そして、空き教室への登校を開始するようになりました。お母さんは、以前ほどうるさく手洗いやゲームのことをとやかく言わなくなりました。

 その後の智也君は、無事に第1志望の高校に合格し、今は元気に高校生活を送っています。

 思春期外来で語られる子どもたちの話題は、一昔前はテレビ番組や芸能人に関するものでしたが、今ではゲームや動画に変わりました。しかし、そのなかで、今も昔も変わらないものもあります。それは、マンガやアニメです。どんなにゲームをしたり、動画を見たりすることが盛んになっても、子どもたちはマンガやアニメを見続けています。

 智也君は、学校を休んでひきこもり、ひたすらゲームに没頭していました。ゲームでは強い相手を倒すことで一時的な満足感を得ることができました。そんな智也君が、「鬼滅の刃」と出会い、作品中の登場人物のセリフにこころを動かされ、「このままではいけない」と思うようになったのです。

子どもたちのこころに響く言葉

 これはゲームでは得られなかった体験です。ゲームでの達成感は刺激的であり、だから子どもたちはゲームに魅了されるわけです。しかし、それによって、子どもたちの考えが変わったり、生き方に変化が生じたりはしないように思えます。一方、マンガの登場人物のセリフは、子どもたちの考えや行動に変化を与える可能性を秘めています。そのことを智也君は、まさに示してくれたわけです。

 大人はマンガやアニメについて、あまり肯定的には評価しないのではないでしょうか。しかし、子どもたちに与える影響は絶大です。もしかすると、周りの大人の言葉よりも、子どもたちのこころに響いているのかもしれません。子どもたちにかかわる大人は、彼らに人気のあるマンガやアニメに注目しながら、今の子どもたちが抱える苦悩や求めているものをもっとよく理解したいものです。(武井明 精神科医)

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武井 明(たけい・あきら)

 1960年、北海道倶知安町生まれ。旭川医科大学大学院修了。精神科医。市立旭川病院精神神経科診療部長。思春期外来を長年にわたって担当。2009年、日本箱庭療法学会河合隼雄賞受賞。著書に「子どもたちのビミョーな本音」「ビミョーな子どもたち 精神科思春期外来」(いずれも日本評論社)など。

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