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武井明「思春期外来の窓から」

 揺れ動く思春期の子どもたち。そのこころの中には、どんな葛藤や悩みが渦巻いているのか――。大人たちの誰もが経験した「10代」なのに、彼らの声を受け止め、抱えている問題を理解するのは簡単ではありません。今を懸命に生きている子どもたちに寄り添い続ける精神科医・武井明さんが、世代の段差に橋をかけます。

医療・健康・介護のコラム

手洗い1日20回 不潔恐怖にとらわれる中2男子…不登校から救ったのは「鬼滅の刃」だった!

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 マンガ「 鬼滅(きめつ)(やいば) 」は映画化もなされたことで、人気がとても高まりました。この作品は、思春期外来を受診する子どもたちにもさまざまな影響を与え、こころに変化を生じさせることもあります。今回は、そんな男子中学生を紹介したいと思います。

手洗いで登校時刻に間に合わず

手洗い1日20回 不潔恐怖にとらわれる中2男子…不登校から救ったのは「鬼滅の刃」だった!

 智也君(仮名)は、不潔恐怖と不登校のために思春期外来を受診した男子中学生です。

 お父さんとお母さんの3人家族。お母さんはやや過干渉なところがあり、智也君が小さいころから、ちょっとでも危ないことをしようとすると、先回りして止めてしまうところがありました。小学校時代は、まじめでおとなしい子で、学校の規則を破るということは決してありませんでした。

 中学校に入学後から、智也君は平日に塾に通い始めました。そのため、帰宅するのが午後8時ごろになり、家でゲームをする時間がほとんどなくなりました。

 2年生になった智也君は、とくにきっかけはなく、手の汚れをとても気にするようになりました。1日に20回以上の手洗いをして、1回にかける手洗いの時間は、長い時で20~30分間になりました。手洗いのため、朝は登校時刻に間に合わず、遅刻するようになり、2学期からは学校を休み始めました。そのため、お母さんに伴なわれて、思春期外来を受診しました。

家でひたすらゲームに没頭

 初診時の智也君は、「ドアのノブに触ると、自分の手が汚れたと感じて長時間手洗いをしてしまう」と述べていました。お母さんは、そんな智也君の手洗いを何とかやめさせようと、叱りつけていたようです。

 不潔恐怖と不登校ということで、2週間に1度の割合で通院を開始しました。少量の精神安定剤も飲んでもらうことにしました。 学校を休むようになってからの智也君は、ひたすらゲームに没頭していました。これまでできなかった時間を取り返すかのように、ゲームを長時間行いました。お父さんやお母さんから注意されてもまったく聞き入れませんでした。

 通院して3か月が () っても智也君の不潔恐怖は続き、不登校のままでした。診察室では、学校に行っていたころの話をしてくれるようになりました。

 「学校と塾で、とにかく忙しかったんです。自由になる時間がなかった。僕は手を抜くということができないんです。そんな時に突然、手の汚れが気になるようになり、手洗いを繰り返して、学校を休むようになったんです」

煉獄さんの言葉に感動し…

 通院を始めて6か月後、智也君は「鬼滅の刃」を読みだしたと言い、スマホのメモを見ながら、公開されたばかりの映画も見てきたことを話してくれました。もともとマンガ好きだったのです。

 学校を休んでゲームばかりしていたころは、対戦ゲームが好きで強い相手を倒すとすごくスッキリし、「僕もなかなかなものだ」と思えたそうです。しかし、それは一瞬で、ゲームが終わると「学校に行けない自分」でしかありませんでした。

 「『鬼滅の刃』を読んで、鬼と戦って死ぬ間際に、 煉獄(れんごく) さんが炭治郎たちに (のこ) した言葉に感動しました。『己の弱さや不甲斐なさにどれだけ打ちのめされようと 心を燃やせ 歯を食いしばって前を向け』と言っていました。僕が悩んでる手の汚れや不登校のことは、怖い鬼に比べたらたいしたことではないと思えるようになったんです。だって手が汚れていても僕が死ぬわけではないんだから。煉獄さんは殺されそうななかでも前を向けと言っていた。これは、僕に対するエールだと思いました。このままではいけないと、こころが初めて動き出しました。ゲームでは得られない感動です」

 智也くんはものすごい勢いで話してくれました。

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武井 明(たけい・あきら)

 1960年、北海道倶知安町生まれ。旭川医科大学大学院修了。精神科医。市立旭川病院精神神経科診療部長。思春期外来を長年にわたって担当。2009年、日本箱庭療法学会河合隼雄賞受賞。著書に「子どもたちのビミョーな本音」「ビミョーな子どもたち 精神科思春期外来」(いずれも日本評論社)など。

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