ペットと暮らせる特養から 若山三千彦
かわいがってきた犬や猫と最期まで一緒に暮らしたい――。そんな願いをかなえてくれる全国的にも珍しい特別養護老人ホームが、神奈川県横須賀市の「さくらの里 山科」。そこで起きた人とペットの心温まるエピソードを、施設長の若山三千彦さんがつづります。
医療・健康・介護のコラム
愛犬ココ君の物語(中)急激に認知症が進んだ女性 飛びついても無反応…愛情はもう戻らないのか

ココ君と遊ぶ橋本さん
橋本幸代さん(仮名、70歳代)は、認知症が進行したため、住宅型有料老人ホームで暮らすことが不可能になり、トイプードルの愛犬ココ君(当時6歳)と一緒に「さくらの里山科」に転居してきました。
徘徊 、すなわち外に出て行ってしまい、帰れなくなってさまようことが問題になった橋本さんですが、「さくらの里山科」ならば徘徊してしまう心配はほとんどありません。
とは言っても、入居者を決して閉じ込めているわけではありません。1階の正面玄関の自動ドアだけは、脇の壁の高い位置にあるスイッチを押さないと開かないようになっていますが、犬と入居できるユニット(区画)の玄関には鍵をかけていません。
「さくらの里山科」は、ユニット型特別養護老人ホームです。ユニット型ホームは、内部がユニットと呼ばれる区画に分かれています。「さくらの里山科」の場合、一つのユニットは、入居者の個室10室と、リビング、キッチン、3か所のトイレ、風呂で構成されています。いわば、10LDKのマンションのようなものです。
入居者が建物の外に出るには、ユニットの玄関、エレベーターまたは階段(階段の前にはドアがあります)、そして1階正面玄関という3段階のガードを突破しないといけないのです。そのどこかの段階で職員が気付きます。
また、ユニットには常時1~3人の職員が配置されています。職員は、おむつ交換、トイレや入浴の介助などを行っていて、常にユニットの玄関をチェックできているわけではありませんが、限られた空間に入居者が10人だけいる状況です、ある程度細かく入居者を把握できています。誰かがいなくなればすぐに気付きます。もちろん、職員は意識して、全員いるかどうかを常に気にかけています。
このような態勢ですので、開設以来約10年間、入居者が建物の外に出てしまったというケースはありません。認知症の方の行動を制止できず、職員が付き添いながら外に出てしまったことは何回かありますが。
橋本さんも、ホームの外に出て徘徊してしまうことはありませんでした。短時間ですが、職員が付き添って橋本さんにココ君の散歩に行ってもらっていましたから、外に行きたいという衝動も弱まったのかもしれません。比較的落ち着いて暮らしていました。
ココ君も幸せそうでした。橋本さん以外の入居者の方にもかわいがられ、「文福」などほかのワンコたちと仲良くと遊んで、いつも楽しそうでした。
1 / 2
【関連記事】
※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。
※個人情報は書き込まないでください。