ペットと暮らせる特養から 若山三千彦
医療・健康・介護のコラム
愛犬ココ君の物語(上)徘徊する認知症女性をいつもホームに連れ帰る
ココ君に連れられて無事帰ったということを繰り返し……
橋本さんとココ君も数年間は安全かつ健康に過ごすことができました。しかし徐々に橋本さんの認知症は進行し、住宅型有料老人ホームで暮らすことが難しくなってきました。認知症の症状の一つ、 徘徊 をするようになってしまったのです。
徘徊は、認知症の高齢者が自宅の外に出てしまい、帰れなくなって、さまよう症状です。橋本さんの場合は、ココ君の散歩に出かけて帰れなくなるパターンでした。しかも、認知症のせいで、散歩に行ったことを忘れてしまうのです。ココ君を散歩に連れていかなければいけないという強い思いはしっかり残っているので、頻繁に散歩に行こうとします。ホームの職員さんも、橋本さんが外に出てしまわないよう気にかけていたのですが、完全におさえることは不可能な状況でした。
そして、外に出てしまえば、1時間以上帰ってこないのです。最終的にはいつもココ君が橋本さんを誘導して無事ホームに連れ帰ってくれるのですが、職員は気が気でなかったと思います。
なお、橋本さんが素直にココ君の誘導に従ってくれれば、本来の散歩時間である30分程度で戻ってこられたと思います。これは推測ですが、橋本さんは認知症のせいで衝動的な気持ちになっていて、ココ君の誘導を無視して、ひたすら歩き続けることがあったのだと思います。認知症の方が、人格が変わったかのように、一緒にいる家族の制止も聞かずに、ものすごい勢いで歩き続ける、ということはよくありますので。
職員以上に大変だったのが息子さんです。橋本さんが2時間以上帰ってこないと、職員は息子さんに電話を入れました。いくらココ君が連れ帰ってくれるだろうと思っていても、何か事故が起きたら大変ですから、長時間帰ってこない場合は、念のため息子さんに報告しておくしかないのです。
息子さんは他県に住んでおり、ホームに行くのには時間がかかる状況でした。それでも橋本さんが長時間行方不明と聞けば、駆け付けないわけにはいきません。必死にホームに駆け付けた時には、橋本さんはココ君に連れられて無事帰っていた、ということを繰り返した結果、息子さんは疲れ果ててしまいました。
疲れ果てていたのはホームの職員も同じです。橋本さんが長時間帰らない時は、職員も探しに行きます。警察にも相談します。また、短時間でも、職員としては気が気でなく、精神的に疲れたことでしょう。
ホームにとっても、息子さんにとっても、それ以上橋本さんとココ君がホームで生活を続けることはもう限界でした。そんな時に、息子さんはペットと一緒に入居できる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」のことを知ったのです。
(若山三千彦 特別養護老人ホーム「さくらの里山科」施設長)
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