産業医・夏目誠の「ストレスとの付き合い方」
医療・健康・介護のコラム
増加し続ける新入社員の退職、「石の上にも三年」という親の反対とどう向き合う
「753」が「754」に
「753」という言葉をご存じでしょうか? 子どもの成長祝いの行事を思い浮かべるのでは。その数字ではありません。新入社員が就職戦線を勝ち抜き入社します。ところが3年以内に高校卒で7割、短大卒で5割、大卒で3割が辞めていくことを表す数字です。近年、大卒で辞める人が増加しているようなので、「754」になるかもしれません。
早期の退職希望者に面談すると……
精神科医で産業医もしていますと、上司や人事担当者から「新入社員が辞表を持ってきた。理由がよくわからない。メンタルの問題があるかもしれないので、相談に乗ってほしい」との依頼が、入社半年後くらいから出てきます。面談しますと、メンタルの問題ではなく、むしろ就職についての世代間の考え方の違いが見られるようです。そして精神科医の立場から気になるのは、退職を希望して面談した若者の3分の1ぐらいの方が、親や親戚の反対に強いストレスを感じていることです。
「銀行の仕事は合わない」と5か月で転職を希望
野崎さん(仮名)は一流の銀行に就職しました。就活は商社と銀行、メーカーのいずれも大企業に絞って活動。2社目の銀行に内定が得られたので、入社を決めました。「就職人気トップ50に入る企業で安心」と両親も、わがことのように喜んでくれました。
入社し研修を終え、支店での法人営業からスタートです。半年間は先輩の担当企業に同伴し、仕事を覚えます。4か月後に彼は「何となく、営業は自分に合わない」と思ったそうです。それから1か月。「今の仕事は無理。お金のやり取りが性に合わない」と考え、モノづくりが実感できるメーカーに再就職しようと思い立ち、家族に告げました。
「まだ、会社のこと、わからないだろう」と父親
信じられないという表情で父は「せっかく、一流の銀行に就職したのに。半年で辞めたいって。まだ、会社のことを十分にわかっていないだろう」と言います。母親も「『石の上にも三年』と言うでしょう。3年間働いて、それから判断したらどう」と反対しました。
彼は「意見はわかる。学生時代は会社の中身のことはわからなかった。就職して初めて、この仕事は自分に向いていないって実感できたんだ。最近、朝の寝起きも良くないし。会社へ行こうという意欲が萎えてしまって」と応じました。
父は納得できないようで、「まだ入りたてだろう。俺は中小企業で苦労してきたんだ。せっかく大手に入れたんだ。見切りを付けるのは早すぎないか」と繰り返します。
1 / 3
【関連記事】
※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。
※個人情報は書き込まないでください。