アラサー目前! 自閉症の息子と父の備忘録 梅崎正直
医療・健康・介護のコラム
[番外編]午前3時、わが家の冷蔵庫が空っぽになっていたわけ
連載を終了して半年以上がたった。単行本も出版され、一息ついたかとおもいきや、つい先日も長男・洋介(仮名)を巡る“事件”が発生した。まだまだ続く、自閉症の子育て。その一幕についてとしてお伝えしたい。

イラスト:森谷満美子
ここだけ災害が起きたのか…
春先や秋の季節の変わり目になると、眠れなくなったり、情緒が不安定になったりすることが多い洋介。このところもやはり、夜は眠れず、一人で2階の部屋と1階のリビングを行ったり来たりして、ご近所に聞こえるくらいドタバタとうるさくしていた。しかし、「その夜」は、部屋で静かに過ごしていたので、こちらも安心して床に就いたのだった。
最初に事態に気づいたのは次男だった。午前3時過ぎ、リビングに隣接する部屋のふすまを開けると、そこにいたのは全身が茶色く汚れた兄の姿。自分でテレビをつけて、すました顔でソファに座っていたという。嗅いだことがないような強烈な臭いのもとを探すと、キッチンのシンクの上に、家中の食べ物という食べ物がごちゃまぜに積み上げられ、床には様々な液体がぶちまけられていた。次男は次男なりに、この事態を自力で解決する方法について懸命に頭を巡らせたようだが、結局、無理だと判断して、兄を風呂場に押し込めたまま、親を起こしに来たのだ。
起こされてみると、キッチンは壮観であった。まずシンクに見えたのは、ペットボトル、ソースやしょうゆ、ドレッシングのびん、からしやわさびのチューブ……。つまり、中身は全部、シンクの中に出してしまったあとの容器たち。さらにレトルトカレーやインスタントラーメン、冷凍うどんなども中身を出して投げ込まれていた。もう流れなくなって汚泥のようになった中に、キャベツやニンジン、長ネギが沈んでいた。これらが、うずたかく積み上げられた様は、一瞬にしてここだけ何かの災害が起きたかのようで、振り向くと、冷蔵庫の中はすっかり空になっていた。
梅干しとカレーは最強です
景観よりもなお強烈だったのが臭い。冷蔵庫の奥にしまわれていた梅干しなどのびんもひっくり返したため、その刺激臭が家全体に充満していた。そして、鍋に入っていた昨夜のカレーもテーブルに広がっていた。いろいろな匂いの食べ物があったはずだが、結局、この酢とカレーの二つが、他の全てを圧倒してしまうのだということがわかった。災害後の片づけのときに臭いで苦労すると聞くが、食べ物だけでもこの状態。汚泥や薬品なども流れ込んだ現場の大変さを想像しながら、目の前にある小さな災害の後片付けを続けた。
妻は一瞬、倒れそうになっていたが、その後は分別も難しい状態の食品と容器類を取り出し、床と壁を拭き……という仕事を妻や次男と3人で続けるうちに明るくなり、僕は1時間ほど仮眠して会社へと出かけたのだった。当の洋介本人は、やるだけやって気持ちよくスヤスヤと寝てしまったようだ。
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最終回で感想をお送りしてしまいましたが、まだ記事が読めてうれしく思うのと、洋介くんの行動や様子が想像できて思わず笑ってしまいました。こちらが度肝を抜かれるような状況でも、本人は何食わぬ顔で過ごしているのですよね。我が家では、冷蔵庫の対策として、ダイヤル式の鍵を取り付けました。全てのドアにではないので、開けられてしまうことも多く、さらに対策を考えているところです。また、洋介くんには専用の冷蔵庫を用意すればストレスも感じなくなるのかな? などと勝手に想像してしまいました。備蓄品はDIYでドアを鍵付きに交換した部屋にまとめてあります。子どもがパニックになった時に親が避難する部屋としても活躍しています。もう力ではかなわないので…。また時々番外編などで近状のご様子を伺えるとうれしいです。どうぞご自愛のほどお過ごしください。
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