山中龍宏「子どもを守る」
医療・健康・介護のコラム
続発するベランダからの転落死 最も多いのは「2歳」…防止策を妨げるもの
日本のあちこちで、幼児が高所から転落しています。2020年6月は、8日に福岡県久留米市で4歳女児がマンション18階から転落死、15日に札幌市で5歳男児が7階から転落、16日に横浜市で5歳女児が8階から転落死、27日に神奈川県山北町で4歳女児が6階から転落死と、3週間で4人も転落しています。最近でも、下記のように数か月に1件はニュースで報道されています。高所から転落すると死亡率が高くなります。今回は、幼児の転落の実態と問題点についてお話しします。

イラスト:高橋まや
2階からの転落でも7割近くが入院
事例1 :21年10月13日朝、大阪市北区のマンションの25階から、4歳女児が転落して死亡した。ベランダの柵の高さは130cmで、ベランダには木の椅子が置いてあった。
事例2 :21年9月23日夜、札幌市白石区のマンションの9階の子ども部屋の窓から、4歳男児が転落して死亡した。床から窓枠の下までは81cm、そこから3本の横桟があり、横桟の最上部は121cmであった。
事例3 :21年6月24日、札幌市手稲区の市営住宅の4階ベランダから、4歳女児が転落したが命に別状はない。
死亡例はニュースになりますが、それ以外にもたくさんの転落例が報告されています。東京都生活文化局から「 子供のベランダからの転落防止のための手すりの安全対策 」という報告書が出ていますので、それを見てみましょう。
07年からの10年間に、東京消防庁が救急搬送した12歳以下のベランダからの転落例126例と、医療機関ネットワーク情報収集例19例について分析が行われました。入院を要する中等症以上の事例が全体の7割を超え、死亡例は2件でした。2歳児が最も多く、 次いで3歳児、4歳児の順で、10歳以上でも事故が起きていました。中等症以上の事故が毎年10件程度発生していました。
2階からの転落が最も多く、全体の過半数を占め、高層から転落したほど重症度は高く、2階からの転落でも7割近くが入院を要する危害となっていました。事故の発生現場を目撃している事例は少なく、事故につながる動作は8割が不明でした。動作がわかった26件の内訳では、「手すりの上を越える」が23件、「手すりなどがなく落ちる」が2件、「手すりなどの隙間をすり抜ける」が1件でした。
なぜ、幼児の転落事故が、同じように起こり続けているのでしょうか?
ひとことで言えば、予防策が行われていないからです。予防策が行われていると思われていても、それが有効ではないからです。予防策を考えるためには、どのような状況で転落したかを詳細に知る必要がありますが、現実には、その情報がないのです。
予防には事故の詳しい情報が必要
幼児が転落したニュースの最後は、「警察が詳しい状況を調べています」となっていることが多いのですが、その「詳しい状況」が公開されることはありません。その情報がないために、科学的な予防策を考えることができず、同じ転落死が起こり続けているのです。
警察は、犯罪の可能性の有無を判定するため、詳細な調査を行います。子どもの身長、体重、頭幅、ベランダの構造(面積、手すりの高さ・幅・形状、足掛かりになる突起、表面の材質など)、ベランダに置かれたもの、子どもの直前の行動、施錠状況などを調査し、計測や写真撮影も行い、調書を作成します。犯罪性がないと判断された場合でも、その情報が公開されることはありません。
事故の予防に生かすためには、この調書を建築や人間工学の専門家に提供、あるいは公開する必要があります。メディアの人は、1~2日の報道ですませるだけでなく、詳しい情報について警察に繰り返し取材し、それをニュースにしてほしいと思います。警察が調べた情報は、国民のためのデータとして生かすことが不可欠です。
保護者の方からも情報提供していただくことが必要ですが、あまり協力を得ることができません。多くの場合、「私が気を付けていれば」と自分の責任にしてしまいます。遺族からは、「もう、子どもが帰ってくることはない」「そっとしておいてほしい」と断られることが多いのです。
ベランダに踏み台になるものがない場合でも、転落死は起きていますが、そのマンションの施工業者は、「このベランダは建築基準法に合致していて問題はない」と言います。しかし、現実に転落死が起きているのです。法令に合致しているかどうかではなく、なぜ転落したのか、その建物の構造を検討することが必要です。後付けの防護柵などを設置しようとすると、「格好が悪い」「管理組合で認められない」「不動産価値が落ちる」と言われることもあり、そうしたことも今後の予防策を考える妨げとなります。
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