新・のぶさんのペイシェント・カフェ 鈴木信行
ここは東京のとある下町にあるという架空のカフェ。オーナーののぶさんのいれるコーヒーの香りに誘われ、今日もすてきなゲストが訪れて、話が弾んでいるようだ。(ゲストとの対話を、毎月上下2回に分けてお届けします)
医療・健康・介護のコラム
乳がん検査で検体を取り違え 医療過誤から見えてきた被害者の現実
ここは、ある下町にあるという架空のカフェ。オーナーののぶさんのいれるコーヒーの香りに誘われ、今日もすてきなゲストが訪れて、話が弾んでいるようだ。(ゲストとの対話を、上下2回に分けてお届けします)

【今月のゲスト】
井上恵子(いのうえ・けいこ)さん
2013年、乳がん検診を受け、生検の結果は「良性」。14年、生検の検体取り違え事故が明らかになり、乳がんを手術。抗がん剤、放射線治療後、ホルモン療法を継続中。17年、相手方に損害賠償請求を行い、翌年示談。
19年、医療事故の事故調査の必要性を痛感し、医療過誤原告の会に入会。医療事故調査制度の運用改善と患者の権利を定めた医療基本法の制定を目指して活動をしている。20年には、精神科での医療事故の事例を知り、大阪精神医療人権センターにも入会。同会の「権利擁護システム研究会」に参加して患者の権利擁護について法的・制度的な側面から学んでいる。医療・介護関係者・患者・市民・製薬企業等の様々な立場の方々との交流から、視野を広げることで事故の背後にある問題にも目を向け、より良い医療を目指して活動している。
・医療過誤原告の会 http://www.genkoku.net/
医療過誤原告の会の井上恵子さん(上)
冬が近くなり、カフェの扉から入る空気は冷たく、乾燥している。私は、温かいコーヒーをドリップし始める。外気を押し返すように、コーヒーの香りとぬくもりが店内を満たした。
カウンターには、これまでに数回お会いした井上恵子さんがお越しになっている。
彼女が自分の病気と強く向き合うことになったのは、今から8年ほど前。健康診断で乳房にしこりが発見されたことが始まりだ。コーヒーカップで冷えた両手を温めながら、当時の様子を時間の流れとともに分かりやすく話してくれる。
念のために受けた手術で「がん」と分かる
健診で腫瘍が見つかった後、腫瘍の細胞を採取して調べる「生検」を受けた。結果は、「良性」だった。
そのまま様子を見てもよかったのだが、1cm程度と小さいながらも、事前に受けた画像検査で悪性の疑いがあるとみられていたこともあり、医師に相談して、転院して腫瘍の切除手術を受けた。
切除した腫瘍は、改めて病理検査が行われる。生検で「良性」だったからには「良性」のはずだと思われたが、結果は何と「悪性」、すなわちがんだった。
「驚きとショックでした」
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