新・のぶさんのペイシェント・カフェ 鈴木信行
医療・健康・介護のコラム
乳がん検査で検体を取り違え 医療過誤から見えてきた被害者の現実
感じられなかった当事者意識
原因究明と再発防止を考えた時、関係するすべての組織にできることがあるはずだ。
下請け検査会社は、対策の実施に向けた工程表を作るなど再発防止に向け真摯(しんし)に取り組んでいた。
しかし一方、元請け検査会社には当事者意識が感じられなかった。
「会うたびに上から目線で、医療過誤に巻き込まれてしまって迷惑だというスタンスに感じました」
最初に検査を受けた病院、転院して手術を受けた病院の両方で、カルテの開示請求を行い、もう一方の被害者の経緯などとも照らし合わせた。
井上さんは、この過程でいくつもの疑問に突き当たり、事実解明の必要性を強く感じた。そこで、事実の確認や手続き実施のために弁護士を立てることにした。
示談までに要した5年の日々
取り違えという初歩的なミス。しかし、関係する組織が多いために、事実確認をするだけでも年単位を必要とした。
カルテ以外の資料や、交渉の記録、メモなどをつなぎ合わせて事実の解明をしてゆく。協力してくれる医師に意見を求めることも必要だ。医療と法律の専門用語と格闘した。
最終的に裁判ではなく、示談という形で結論を導き出した。それまでに5年もの歳月を要した。
もし、医療過誤を疑っても、それを証明するための証拠が手に入らなかったら、被害者が思うように動けない状況だったり亡くなったりしていたら、積極的に取り組んでくれる弁護士が見つからなかったら、協力してくれる医師がいなかったら、果たして何年かかっていただろうか。いや、そもそも解決したのだろうか。
きょうのカフェは客もまばらで、もう少し話を深く聞いてみたくなった。私はカップを洗っていた手を止めた。(鈴木信行 患医ねっと代表)
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