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Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

メディアで取り上げられた「画期的な新薬」を使いたい。いつまで待てばいいですか?

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メディアで取り上げられた「画期的な新薬」を使いたい。いつまで待てばいいですか?

イラスト:さかいゆは

 医学は日々進歩し、新しい薬が次々と開発されていて、現在の患者さんは、その進歩のおかげで、10年前の患者さんからみたら奇跡的とも言える医療を受けています。実際にここ10年間で、進行がんの患者さんの命の長さは着実に伸びていると報告されています。

 でも、患者さんは、「素晴らしい医療を受けられて私は幸せだ」と実感できているでしょうか?

もっといい治療が受けられるはず…

 私の印象では、今の医療に満足している患者さんよりも、「医学が進歩すればもっといい治療が受けられるはずなのに、今はこの程度の治療しか受けられずに残念だ」と思っている患者さんの方が多いように感じます。医学が進歩する一方で、人々の期待は、その進歩よりもさらに先を行ってしまい、現状では満足できなくなっているのかもしれません。

 「これだけ科学が進歩しているのに、なぜがんを治せないのか」「最先端技術を使えば、自分の体にできたがんを消し去ることができるはずなのに、なぜ医師はそういう治療法を提示してくれないのか」……進行がんの患者さんの多くは、そのような不全感を抱きながら、病気と向き合い、治療を受けています。

 テレビ、新聞、雑誌などのメディアは、今受けられる標準的な治療よりも、今はまだ受けられない「夢の治療」を取り上げる傾向があります。その方が、視聴者や読者の関心も高く、視聴率や売り上げもよくなるようです。その結果、人々の期待はますます (あお) られ、「もっといい医療があるはず」というイメージが根付いていきます。

 「標準治療」というのは、今ここで受けることのできる最先端で最高の治療なのですが、一般にはそのようには受け止められておらず、標準とは「並」であって、そんな不十分な治療よりも、「上」や「特上」の治療を受けたいと思ってしまう患者さんが多いようです。

未来への期待と「満たされない気持ち」

 未来に期待したい気持ちは自然なものですし、私たちも、よりよい未来の医療をつくるために、日々研究に取り組んでいるわけですから、その思いは一緒です。でも、来るかどうかもわからない未来を基準に考えることは、必ずしも得策ではありません。「もっといい医療があるはず」という思いを抱きながら病気と向き合い、最期を迎えた患者さんもたくさん診てきましたが、治療の恩恵を受けていたとしても、残るのは「満たされない気持ち」です。今できる最善の治療を受け、その恩恵を実感し、「やるべきことをやっている」と納得できれば、心の余裕も生まれ、あせることなく日々を送ることができると思うのですが、それを妨げてしまうくらい、「夢の治療」への期待が増幅しています。

 「未来を見るよりも現実を見るべき」というのは、夢も希望もない冷たいアドバイスに聞こえるかもしれませんが、私はそうは思っていません。むしろ、「今ここで受けられる医療」こそ素晴らしいものであって、それを最大限活用することに力を注ぐのが得策です。そして、それは誰もが普通に受けることができるものです。

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高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大付属病院で研修後、2000年より東京共済病院呼吸器科医員、02年より国立がんセンター中央病院内科レジデントとして経験を積んだ。05年に東京共済病院に戻り、「腫瘍内科」を開設。08年、帝京大学医学部付属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に最年少部長として赴任し、「日本一の腫瘍内科」を目標に掲げた。10年間の虎の門時代は、様々ながんの薬物療法と緩和ケアを行い、幅広く臨床研究に取り組むとともに、多くの若手腫瘍内科医を育成した。20年には、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、かつてのヨミドクターの連載「がんと向き合う ~腫瘍内科医・高野利実の診察室~」をまとめた、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)がある。

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