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住宅購入や教育資金に…子や孫のため「生前贈与」 メリットと注意点は?
福岡県内に住んでいた男性は生前、5人の孫に1人あたり計約500万円を贈与した。年間110万円までは贈与税がかからない仕組みを使った。
男性は店舗兼マンションと駐車場を所有し、年金のほかに賃貸収入があった。いくら贈与するかを検討し、出来る範囲でコツコツと1人あたり数十万円ずつ贈った。孫たちには、自分から贈与について知らせた。孫は学費などに充て、祖父への感謝を口にしていたという。
このケースのように、生きているうちに自分の財産を家族らに贈与することを生前贈与という。渡辺資産税税理士事務所の渡辺由紀子さんは「住宅の購入や教育資金など、子供や孫がお金が必要な時に資産を生かせる。相続税を減らす効果もある」と話す。
生前贈与の代表的な例は、この男性も利用した「暦年贈与」だ。110万円までは課税されない。非課税枠は贈る人ではなく、もらう人の1人あたりの金額だ。孫5人に分割して贈る場合、祖父の資産から毎年550万円を非課税で贈与できる。
注意が必要なのは、贈与は財産を贈る人の「あげた」という意思と、受け取る人の「もらった」という両方の意思で成立することだ。祖父母が孫名義の口座を作り、将来使ってもらおうと黙って預金しておくケースがある。この場合、孫側がもらったことを知らないと、暦年贈与とみなされず、課税の対象になってしまう。
渡辺さんは「日付や金額、あげた人ともらった人の署名などを書いた贈与契約書を作っておくといい」とアドバイスする。また、贈る人が亡くなる前の3年分は、相続人がもらった分に限って相続税の対象になるため、早い時期から計画的に行う必要がある。
特例措置も
暦年贈与以外に、結婚・子育てや住宅の取得の費用、教育資金について非課税で贈与できる特例措置がある。
例えば、教育資金の場合、受け取る側の年齢や所得に制限があるが、1500万円まで一度に贈与できる。学校の入学金や授業料のほか、学習塾の月謝なども対象だが、教育資金に使ったことがわかる領収書を金融機関に提出する必要がある。
ただ、子や孫のためと思い奮発しすぎると、自身の貯蓄が減って生活費が不足する事態になりかねない。
渡辺さんは「介護施設の入居費用などまとまった額が必要になることもある。老後資金を冷静に見積もり、慎重に判断しないと、後々困ることになる」と注意を促している。(沼尻知子)
家族と十分話し合いを
生前贈与を検討する際のポイントを、相続終活専門協会代表理事の貞方大輔さん(40)=写真=に聞いた。
生前贈与のメリットは、相続と違い、生きているうちに贈与を受けた人の喜ぶ姿が見られることです。住宅の購入や教育費などに目的が限られますが、まとまったお金を非課税で贈与できる仕組みもあります。
相続は、遺言で指定しない限り、受け取る人は法定相続人に限られ、配偶者や子どもなどが一定の割合を相続する「遺留分」という仕組みもあります。
生前贈与にはこうしたルールがなく、自分の意思で自由に受取人を選ぶことができます。
ただ、十分な検討の時間が必要です。生前贈与をきっかけに家族に不和が生じたり、財産を受け取った家族が散財してしまったりしては元も子もありません。
家族の間でもお金の話はしにくいですが、事前に生前贈与を行う理由などを伝え、話し合いをしておくといいでしょう。
また、一定額を超えた贈与には、贈与税(税率最大55%)がかかります。税務署の目が届かないだろうと申告を怠ると、亡くなった後、相続税の税務調査でばれてしまうこともあります。そうなると、申告を怠ったペナルティーを上乗せして納税することになるので注意しましょう。(談)
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