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創造力で社会とつなぐ 障害者のアート作品集① やまなみ工房

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 障害者の作品の魅力は、言葉で表すよりも、実際に見ていただく方がいい、と言われることがあります。その迫力や発想の斬新さは、既成のアートとは違う魅力を発しているように思えます。読売新聞では9月27日、28日と「安心の設計」面で創作現場の様子をお伝えしましたが、そこで伝えきれなかった作品を、関係者のご協力のもと、「ヨミドクター」で一部ご紹介させていただくことになりました。

誰にも歪められず自分自身の世界を/やまなみ工房

 滋賀県甲賀市にある社会福祉法人が運営する「やまなみ工房」。自然が豊かなこの地に、地元の知的、精神、身体の障害者が約90人、通っている。それぞれが時間の使い方、落ち着く空間、制作のテーマや素材に違いがある。誰にも歪められず自分自身の世界を築き表現する。自分自身に忠実であろうとすることを、身をもって示しているかのようだ。6人の作家作品を紹介する。(作品紹介文は、やまなみ工房の執筆)

大原菜穂子 「菜穂子地蔵」 1992年~

大原菜穂子 「菜穂子地蔵」 1992年~ 

 1971年生まれ。滋賀県在住。1989年から「やまなみ工房」に所属。割りばしと水の入ったお椀を用意し腕まくりをすると、彼女の人形作りは始まる。適量の陶土を取り、手のひらで丸め胴体と顔を作り、伸ばしたひも状の陶土は手となり、たった3つのパーツが組み合わされ、最後に表情を描き一つの作品は完成する。時間にして1体1分。その表情は同じようで全て違い、朗らかな表情をしている。これまで作り上げた推定数万体を超える地蔵、昔も今も、その手から生まれる人形の形や創作に向かうスタイルは変わらない。

上土橋勇樹 タイトル不明、2021年

上土橋勇樹 タイトル不明、2021年

 2001年生まれ。2020年から「やまなみ工房」に所属。絵画を始めたのは3歳頃、最初は英語を描き始め、様々なフォントに興味を持つ。拳を握るようにペンを持ち描かれる文字列は、その直線と曲線の書体からカリグラフィーを連想させるが、作品毎に雰囲気は異なり、時にはコマ割りの中に文字と人物が登場し、彼の頭の中の世界が表出されている。自身の座席とパーソナルスペースを行き来し、文字を描いては席を離れ、身体を回転させては再び席に着いて文字を紡いでいる。小学1年よりパソコンに興味を示し触り始める。自宅ではキーボードとマウスを使用し、複数のパソコンソフトを使い分けグラフィックデザインを行なっている。

田村拓也 「女の人(Woman)」 2014年

田村拓也 「女の人(Woman)」 2014年

 1992年生まれ。滋賀県在住。2011年から「やまなみ工房」に所属。彼が用いる画材はマーカーが多く、ハガキサイズから全紙サイズの画用紙に動物や人物等をモチーフにし描く。初めに全体像を描くと、あとは一つ一つの色を使い分け、丁寧に線を塗り重ねていく。その作業を繰り返すうち、升目状に四角の鮮やかな色が埋め尽くされていく。彼は毎日同じ時間、同じ場所、同じリズムでこの作業を淡々と繰り返していく。あまり人と関わる事を好まず、いつも一人物静かな彼だが、創作中、絵を眺める表情からは秘めたる情熱を感じさせる。多くの展覧会に出展する事を目標にしている彼、新たな展覧会を目標にして、今日もペンを握っている。

田中睦美「女の人(Women)」 2014年

田中睦美「女の人(Women)」 2014年

 1956年生まれ。滋賀県在住。2004年から「やまなみ工房」に所属。刺繍をしていた彼女はある時、共に過ごす仲の良いメンバーが楽しげに活き活きと絵画に没頭する姿を目にした事を機に、作品制作に取り組むようになる。畳2畳分ほどの画用紙を前に、当初は不安そうに絵に向かっていたが、周囲の評価や関わりが徐々に彼女の自信へと繋がっていく。モチーフは人物が主で写真集や雑誌を見てイメージを作る。色鉛筆で全体像を描き、パステルで塗った箇所を掌で丁寧に伸ばし、更に上から塗り重ねた色彩は彼女の創作意欲と共に深みを増していく。

城谷明子 「魚(fish)」 2016年

城谷明子 「魚(fish)」 2016年

 1975年生まれ。滋賀県在住。1997年から「やまなみ工房」に所属。いつもは内向的な性格の彼女が絵画に取り組むようになったのは2015年頃からだ。喫茶業務に参加する空き時間に、他のグループで創作活動に取り組んだことから作品制作が始まった。普段から自分に自信を持つことが苦手だった彼女が、施設を訪れた人達から描いた絵を評価され、声をかけてもられることで少しずつ作業意欲へとつながり自己を表現することの喜びが持てるようになった。モチーフは雑誌や画集から選び主に人物や動物等が中心となる。構図や彩色は自分のイメージから生まれてくるものだ。

山際正己 「バンザイ(Banzai)」 1992年

山際正巳 「バンザイ(Banzai)」 1992年

 1972年生まれ。滋賀県在住。1990年から「やまなみ工房」に所属。炊事、洗濯、部屋掃除に古紙回収、毎日彼が同じ時間、同じ流れで生活する中のひとつに創作活動がある。当初は、学校時代に学んだ皿や器等しか作ることのできなかった彼が、様々な体験や共に過ごす仲間からの影響を受け、次第に作品も個性豊かな立体造形へと進化していった。彼の真面目で実直な性格は作風にも表れ、同じ形の物を流れ作業のように量産して作りつづけることができる。彼の代表的な作品「正己地蔵」で20年以上変わることなく制作され、何十万体を超える作品は、彼の生き様そのものなのである。

やまなみ工房

やまなみ工房
所在地:〒520-3321 滋賀県甲賀市甲南町葛木872
TEL:0748-86-0334
FAX:0748-86-8911
MAIL:contact@a-yamanami.jp
WEB:http://a-yamanami.jp

 

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