武井明「思春期外来の窓から」
揺れ動く思春期の子どもたち。そのこころの中には、どんな葛藤や悩みが渦巻いているのか――。大人たちの誰もが経験した「10代」なのに、彼らの声を受け止め、抱えている問題を理解するのは簡単ではありません。今を懸命に生きている子どもたちに寄り添い続ける精神科医・武井明さんが、世代の段差に橋をかけます。
妊娠・育児・性の悩み
友人に相談されてばかりの高2女子が過呼吸に…共感力の裏に「安心感の殻で守られていない心」
他人の話を聞いて共感することは、人と人とのつながりを築くために大事なこころの働きです。しかし、それが極端になると、生きづらさの原因にもなってしまいます。今回は、そんな女子高生を紹介します。
幼いころからよく気のつく子
真由さん(仮名)は、過呼吸のために思春期外来を受診した女子高生です。
両親、真由さん、弟の4人家族。お父さんは建設会社の社長さんで、普段は出張が多く、自宅にはたまにしか帰ってきません。お母さんは元看護師です。真由さんの弟さんは病弱な子で、入院を繰り返していました。真由さんは幼いころからよく気のつく子で、親の手をわずらわせたことは一度もありませんでした。
真由さんは、学区外の公立高校に入学することになりました。高校1年の時には、知り合いが誰もいない学校だったので、なじむことに懸命でした。しかしそのうち、誰に対しても親身になる真由さんのことを同級生たちは頼りにし、相談ごとをもちかけるようになりました。
高校2年になってから、真由さんは、教室で突然、過呼吸を起こすようになり、保健室に運ばれることを繰り返すようになりました。保健室の先生の勧めで、お母さんに同伴されて思春期外来を受診しました。
友だちの気持ちが自分のことのように思えて…
初診時の真由さんは、終始、笑顔を見せ、自分には悩みごとはないと述べていました。お母さんも、真由さんに悩みごとがあるなんて想像できないと話していました。2週間に1度の割合で、お母さんと一緒に通院してもらうことにしました。
通院して3か月が 経 ってから、ようやく真由さんは、学校での悩みごとを口にするようになりました。
「私は友だちと会話する時に、相手の気持ちばかり考えてしまいます。友だちの気持ちが自分のことのように思えて、一緒になって泣いたり、怒ったりしてしまいました」
「それだけではなく、自分の言葉で友だちが傷ついたのではないかといつも気にしてしまいます。友だちから『付き合っていた彼と別れた』という話を聞かされたときに、私もその彼のことを悪く言ってしまいました。でも本当は、友だちはまだその彼のことが好きだったのかもしれないと不安になりました。それで、その友だちを傷つけたのではないかと思い、何度も『傷つけていないか』と友だちに確認しました」
「私は相手の言葉の裏の気持ちをいつも考えてしまいます。それがつらくてしょうがありません。そんな考えで頭がいっぱいになると、息苦しくなり、過呼吸になるようです」
と述べています。
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