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息子から母へ「呼吸が上手くできない」とメッセージ、2日後に遺体で発見…[検証コロナ 第5波の教訓]<1>

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 「呼吸が 上手うま くできない」「酸素が薄いんだよ」

 8月5日午後。東京都杉並区で楽器販売などの店を営む男性(45)から、母親(70)のスマートフォンにメッセージが届いた。男性は7月末に新型コロナウイルス感染が判明。自宅は別の区にあるが、両親にうつさないよう、店舗内で一人、療養していた。

息子から母へ「呼吸が上手くできない」とメッセージ、2日後に遺体で発見…[検証コロナ 第5波の教訓]<1>

療養中の男性から母親のスマートフォンに届いたメッセージ。男性はこの2日後、亡くなっているのが見つかった(9月28日、東京都内で)=画像は一部修整しています

 前日までは「大丈夫」などと書き送ってきていたが、この日は「鼻が全く通ってない」「歩いたら倒れそうになる」と様子が違った。母親が「入院とかしないの?」と尋ねると、「保健所の電話に出れない。なってから取ったら間に合わない」「こっちからかけても折り返しを待ってくださいと言われて」と返信してきた。

 同じ頃、自宅療養者の健康観察を担う杉並保健所は、男性の療養先を探しあぐねていた。8月2日から男性の携帯電話にかけ続けたが、一度もつながらない。5日の午後は、男性が療養先として届け出ていた住所に職員を向かわせたものの、居場所を見つけられずに同日、安否確認を断念した。

 店の中で男性が死亡しているのを母親が見つけたのは、その2日後。死因は新型コロナ感染による肺炎だった。届け出の住所には、男性の店舗が入った雑居ビルとマンションがあったが、職員はマンションだけを訪問していた。

 「まさか亡くなるなんて思いもしなかった」。突然の息子の死を母親は悔やむ。

 全国で最大13万人もの自宅療養者が出た今夏の「第5波」。東京都内で7月下旬~9月、自宅療養中に亡くなった人は53人に上った。なぜ、これほど多くの自宅療養死が起きたのか。

宿泊療養 滞った東京

 東京都杉並区の店舗で療養中の男性(45)が亡くなった8月上旬は、まさに「感染爆発」のさなかだった。

 8月5日、都内の新規感染者は初めて5000人を突破。病床が 逼迫ひっぱく して自宅療養者が急増し、杉並区でも1000人を超えた。

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東京都杉並区では9月に入り、自宅療養者の健康観察を強化するための「支援ステーション」を設けた(9月12日)=区提供

 当時、杉並保健所では自宅療養者の健康観察のための人員を55人から72人に拡充したが、業務は増える一方だった。男性が母親に送ったスマホのメッセージからは、保健所に連絡して「折り返し」を待っていたとみられるが、これまでの区の調査では、男性と通話した記録は見つかっていない。

 田中良区長は「第6波では同じ てつ を踏むわけにいかない。連絡がつかずに亡くなる人が出ないよう、見守りをきめ細かくしていく」と力を込める。

■部屋数倍増

 7月から9月にかけて、都内では新規感染者数が累計で約20万人に上り、ピーク時の自宅療養者は2万6000人に。自宅療養中の死者は50人以上となった。救急搬送先で亡くなった人も含まれるが、自宅での死者は20人を超える。

 ところが、同じ大都市でも大阪府に目を向けると、事情は大きく異なる。新規感染者の累計は約9万6000人、ピーク時の自宅療養者も1万8000人を超えたが、自宅での死者はわずか1人だった。

 この差は、一体どこから生まれたのか。

 「大阪は宿泊療養施設を増やせたのが大きかった」と、藤井睦子・府健康医療部長は振り返る。

 関西地方では、春の第4波で感染力の強い変異ウイルスが首都圏よりも早く広がり、大阪府内でも自宅療養中の死者が19人に上った。事態を重く見た府は病床数を1・3倍に増やし、宿泊療養のためのホテル部屋数も、約4000室から約8400室まで増やした。

 ホテルに常駐する看護師の確保には府看護協会が全面協力した。高橋弘枝会長は「防護服の着脱など丁寧な研修を行い、安心して働ける環境を作って他府県からも優秀な人材を集めることができた」と話す。

 府は「入院以外は原則宿泊療養」の方針を掲げ、多い日で約3500人が宿泊施設を利用。オンライン診療などの活用により、「多くの人を早期に治療でき、重症化する人を減らせた」と府幹部はみる。

 これに対し、都内では、宿泊療養用のホテル部屋数は大阪より少ない約3300室で、1日あたりの利用者は最大で約2200人にとどまった。杉並区では、8月1日時点で宿泊施設に入れたのは、自宅療養中の約700人に対し、わずか54人だった。

 都福祉保健局の幹部は「ワクチン接種もあって看護師の確保が思うように進まず、ホテルの部屋数を増やしたくても増やせなかった」と明かす。

 自宅療養者のフォロー体制にも違いがあった。

 東京都では健康観察を保健所と都の「フォローアップセンター」が分担していたが、療養者の急増で業務が追いつかなくなり、同センターは7月28日、観察対象を30歳未満に縮小。その分、保健所の負担が増大し、東京23区内では健康観察の遅れなどが相次いだ。

 一方、大阪府では、電話だけでなく自宅を訪問して健康観察や安否確認を実施。訪問看護ステーションと連携し、8~9月で計約350件の訪問をしたところ、早期診療・入院につながるケースもあったという。

■「先進地」に教わる

 こうした中、都内にありながら自宅療養中の死者ゼロで第5波を乗り越えたのが、墨田区だ。

 関西の第4波の教訓を生かそうと、6月の段階で神戸市内の医療関係者を招いて講習会を開き、「最初の連絡遅れが自宅療養中の急変と死亡を招く」――などと教えてもらった。

 これを踏まえ同区は、重症化を防ぐための「抗体カクテル療法」を行う病床を確保したり、地元の医師と看護師で「健康観察チーム」を作ったりと、独自対策を実施した。

 厚生労働省は1日、「第6波」に向けた保健・医療体制の整備を都道府県に求めた。同省幹部は「大阪にできたことは、東京にもできるはず。いち早く感染者と連絡を取り、症状に応じて病院やホテルなどで治療・療養ができる体制を構築する必要がある」と語った。(伊藤崇、中田智香子)

 「災害級」の感染拡大が起きた第5波は医療の逼迫を引き起こし、感染症対策に大きな課題を突きつけた。教訓をどう生かすか。第6波への備えを考える。

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