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山中龍宏「子どもを守る」

医療・健康・介護のコラム

ショッピングカートから落ちた1歳8か月女児 急性硬膜外血腫で救急搬送…深刻な事態につながる「高さ」

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 乳幼児は、いろいろなところから転落します。今回はクーハンとショッピングカートからの転落を中心にお話しします。

ショッピングカートから落ちた1歳8か月女児 急性硬膜外血腫で救急搬送…深刻な事態につながる「高さ」

イラスト:高橋まや

滑らかなシャツを着た母親の肩から…

 クーハンとは、生後3か月くらいまでの赤ちゃんを寝かしつけたり、持ち運んだりするための持ち手のついた大きなかごで、ベビーキャリー、あるいはキャリーバッグとも言われます。赤ちゃんを運ぶ際は、基本的に大人の片腕で運ぶことになります。

事例1 :生後12日の男児。2017年9月、身長 150センチの母親が、クーハンを肩にかけたまま玄関のドアを開けようとしたところ、クーハンの両ひもが肩から滑り落ちた。クーハンの中に入っていた男児は、90センチ程度の高さから外に投げ出されてコンクリートの地面に転落した。母親は表面が滑らかなシャツを着用していた。左側頭部が腫れてきたため医療機関を受診し、入院した。頭部CT検査にて左頭頂骨骨折を認めたが、頭蓋内損傷は認めなかった。5日目に退院した。

 クーハンの添付文書には肩掛けはしないように記載されていましたが、ひもが長く肩に掛けることが可能なため、このような事故が起こりました。

クーハンとチャイルドシートは目的が異なる製品

 その他、どのような状況で転落が起こったかをみると、

  1. 赤ちゃんを入れて移動している時に、持ち手を替えようとしてバランスを崩し、クーハンが傾いて落ちた
  2. 赤ちゃんを入れたクーハンを車の座席に置いていて、急ブレーキにより車内に落ちた
  3. 車の乗降時にクーハンが引っかかり落とした
  4. 赤ちゃんを入れてテーブルの上に置いていたクーハンが落ちた
  5. 片側の取っ手だけをつかんで持ち上げ、赤ちゃんが滑り落ちた
  6. 階段を上っているときにクーハンが斜めになり、赤ちゃんが滑り落ちた

 などがありました( 沖縄県医師会報2008年1月号 )。

 クーハンとチャイルドシートはまったく目的が異なる製品です。車に子どもを乗せるとき、クーハンを使用してはいけません。チャイルドシートで子どもの体を自動車に固定することが不可欠です。

ショッピングカートから落ちると重篤な頭部傷害も

 買い物をするとき、よく使用されるショッピングカート。商品を載せるだけでなく、子どもを乗せる座席がかごの外についているもの、かごの内側にあるものなど、いろいろなタイプがあります。

事例2 :1歳8か月の女児。ショッピングセンターのカートに乗っていたところ、転落し後頭部を打撲した。すぐに泣き、意識消失もなかった。その後、吐き気があり、自宅に帰っても続くため受診したところ、頭部CT検査にて急性硬膜外血腫を認め、救急搬送された。

 2011年度から16年10月までに、医療機関ネットワークから報告された店舗内での事故情報は295件あり、そのうち108件(37%)がショッピングカートに関係する6歳以下の子どもの事故でした。転落が69件(64%)、転倒が18件(17%)、衝突・接触が16件(15%)、挟む事故が5件(5%)でした。転落には立ち乗りや乗り出して転落するケース、転倒にはカートに乗ろうとしたり、カートごと転倒したりするケースが見られます。年齢は、1歳が35件(32%)、2歳が31件(29%)、3歳が19件(18%)。1~3歳で約8割が占められていました。けがの種類をみると、擦過傷・挫傷・打撲傷が81%で、骨折や頭蓋内損傷の例もありました。けがをした部位は、頭部が57%、顔面が19%、口が7%など、首から上で84%が占められていました。

 3歳児がコンクリートの床面に転落した場合を想定したシミュレーションでは、頭部の高さが73センチを超えるとHIC(Head Injury Criterion)値が1000を超えました。HICとは、重篤な頭部傷害が発生するリスクの指標の一つで、自動車の衝突事故時の頭部傷害耐性として提案されているものです。HIC値が1000を超えると、中程度の頭部損傷(頭蓋骨の骨折、意識喪失を伴う顔の骨折、深い切り傷など)の発生する確率は約90%となります。カートの上で立ち上がって転落した場合には、HIC値が1000を超える可能性があります。

 ショッピングカートを利用するとき、保護者は買い物という目的があるため、常に子どもを見守っていることはできません。カートの座席を使用するときは、対象年齢を確認し、座席以外には乗せてはいけません。カート上で子どもが立ち上がったり、乗り出したりしないよう、座席にベルトやハーネスがあるときは必ず着用し、子どもの動きを抑制することが必要です。

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山中 龍宏(やまなか・たつひろ)

 小児科医歴45年。1985年9月、プールの排水口に吸い込まれた中学2年女児を看取みとったことから事故予防に取り組み始めた。現在、緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。NPO法人Safe Kids Japan理事長。キッズデザイン賞副審査委員長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員も務める。

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