山中龍宏「子どもを守る」
子どもは成長するにつれ、事故に遭う危険も増します。誤飲や転倒、水難などを未然に防ぐには、過去の事例から学ぶことが効果的です。小さな命を守るために、大人は何をすればいいのか。子どもの事故防止の第一人者、小児科医の山中龍宏さんとともに考えましょう。
医療・健康・介護のコラム
ショッピングカートから落ちた1歳8か月女児 急性硬膜外血腫で救急搬送…深刻な事態につながる「高さ」
フローリングとクッションマットで異なる傷害リスク
転落して受傷した場合、重症度が高いのは頭部外傷です。転落事故が起きている身の回りの代表的な製品について、カタログや安全基準などをもとに転落する高さの最小値と最大値を調べ、各製品から転落した場合の頭部傷害のリスクを計算したコンピューター・シミュレーションがあります。重篤な頭部傷害が発生するリスクの評価にはHIC値を用い、日本の3歳児モデルが使用されています。下図は、代表的な製品から転落した場合の危険性について、子どもが衝突する床の材質がフローリングの場合とクッションマットの場合とで比較した図です。
この図から、身の回りの製品ごとに頭部傷害のリスクが大きく異なること、同じ製品群でも形状などが異なり、転落の高さが変化するために頭部傷害のリスクが異なっていること、HICが1000を超える重篤な頭部傷害が発生する可能性がある製品が数多くあること、床材を変更することで傷害リスクを大幅に減少させることができることがわかりました。
頭部外傷や手足の骨折 医療機関は虐待を疑う
乳児が転落したとき、周りにいるのは保護者一人だけの場合が多く、他に現場を見ている人はいません。近年では子どもへの虐待の事例が多発しており、乳児が頭部外傷や手足の骨折で受診した場合、医療機関では虐待を疑います。これは、社会で子どもを守るために必要なこととなっています。
虐待を疑われると、子どもに対して眼底検査や全身の骨X線検査が行われ、医療関係者や児童相談所からいろいろと詮索されたり、警察の事情聴取や現場検証が行われたりする場合があります。これまでのデータから、転落したとき体にどのような衝撃が加わり、どのような傷害を受けるのかはすでにわかっています。また、保護者らが虚偽の説明をする時のパターンもほぼわかっています。虐待を疑われて、このようなことに巻き込まれないためにも、安全性が確保されている製品を使い、前もって乳幼児に安全な環境を整備しておく必要があるのです。(山中龍宏 緑園こどもクリニック院長)
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