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Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

この治療にかけてみたいんです。奇跡を信じちゃダメですか?

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今ここにある奇跡を感じる

 そもそも、奇跡というのは、何か特別な治療を受けることで起こすものではなく、一人ひとりにもともと起きているものだという気もします。

 この世に生を受けて、いろいろな出会いを重ねて、今ここで生きているという事実も、ある意味、奇跡です。高いお金を払って、特別な治療を受けて、それでもなかなか手の届かない“奇跡”にすがるよりも、すでに手に入れている奇跡を感じる方がよいのかもしれません。

 GReeeeNのヒット曲「キセキ」の歌詞にはこんなフレーズがあります。

 <小さな幸せ 見つけ重ね ゆっくり歩いた「軌跡」>

 この曲では「軌跡」と「奇跡」の二つの「キセキ」が重なり合っています。小さな幸せや出会いを積み重ねてきた「軌跡」の中に「奇跡」があるというメッセージです。一人ひとりの人生にかけがえのない出会いがあり、今があるわけで、それこそが奇跡と言えます。

 これから特別な奇跡を起こそうとするよりも、これまでの人生の軌跡を振り返り、今自分の周りにあるものを見渡し、これからも続く日々の生活を考え、その中に奇跡を探してみるのはどうでしょうか。

 がんを治すことは難しいとしても、自分らしく生きることはできます。どんなに厳しい状況でも、日々の中で「よかった」と思えることはあるはずです。特別な治療を受けなくても、標準的な治療や緩和ケアはいつでも手の届くところにあります。がんを治すことだけが奇跡だと決めつけると、それはなかなか達成できませんが、つらい症状が楽になったり、昨日よりもよいことがあったり、今ある日常に幸せを感じられたり……そういう小さなキセキを積み重ねていけるとよいのではないかと思います。

普通に手に入るものの中にこそ

 今回、このテーマを取り上げることにして、イラスト担当のさかいゆはさんに相談したところ、素敵なイラストを描いてくださいました。 実際に近所を散歩して、奇跡の場面を探してくれたそうです。

 コンクリートの壁の隙間から生えて、一輪だけ咲いているコスモスと、それを見つけて足を止める買い物帰りの女性。ありふれた日常の中にある、ささやかな光景です。花が咲いていても気にもとめず、見過ごしてしまうことも多いと思いますが、こうやってイラストで切り取っていただくと、いろいろと感じるものがあります。少し心の余裕をもって、身の回りの風景や身近な人たちとの語り合いなど、普通に手に入るものの中にささやかな奇跡を見いだせるとよいのでしょう。

 私たち医療者も、そんな「奇跡」を支えられるように、いろんな道具を用意して、工夫していきたいと考えています。(高野利実 がん研有明病院乳腺内科部長)

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高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大付属病院で研修後、2000年より東京共済病院呼吸器科医員、02年より国立がんセンター中央病院内科レジデントとして経験を積んだ。05年に東京共済病院に戻り、「腫瘍内科」を開設。08年、帝京大学医学部付属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に最年少部長として赴任し、「日本一の腫瘍内科」を目標に掲げた。10年間の虎の門時代は、様々ながんの薬物療法と緩和ケアを行い、幅広く臨床研究に取り組むとともに、多くの若手腫瘍内科医を育成した。20年には、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、かつてのヨミドクターの連載「がんと向き合う ~腫瘍内科医・高野利実の診察室~」をまとめた、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)がある。

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