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お金を出す時に焦る、セルフが苦手…ゆっくり会計「スローレジ」で高齢者も安心 

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 高齢者や認知症の人がゆっくりと会計できる「スローレジ」が広がっている。お金の出し入れに時間がかかる人も焦らずに買い物ができ、誰もが暮らしやすい社会に向けた取り組みとして注目されている。(饒波あゆみ)

ゆっくり会計「スローレジ」 高齢者ら安心して買い物

ゆめタウン南行橋店のスローレジで料金を支払う高齢者

 福岡県行橋市の「ゆめタウン南行橋店」で、94歳の女性が総菜や肉のパックが入った買い物用のカートを押して、「スローレジ」と掲示されたレジに並んだ。従業員から「慌てなくていいですよ」と声をかけられ、ゆっくりと財布を出すと、お札と小銭を数えて料金を支払った。女性は「思うように体が動かないけれど、このレジなら気兼ねしなくていい」とほほえんだ。

 高木健造店長(44)によると、高齢者の来店が多いことから、昨年7月にスローレジを設置。事前に従業員ら約40人は「認知症サポーター養成講座」を受講し、認知症の人への接し方も学んだ。当初は月2回、午後の2時間だけだったが、予想以上に利用が多く、今年1月からは1台を常設している。

 同店では、客が自分で商品のバーコードを読み取る「セルフレジ」や、精算を客が行う「セミセルフレジ」が中心だが、従業員が丁寧に対応するスローレジは「安心する」と好評で、車いすの人や妊婦、幼い子ども連れの客も並ぶ。認知症とみられる人の利用もあり、会計時に勘違いや物忘れがあっても、指摘して嫌な思いをさせないよう心がけているという。レジ担当の女性従業員(52)は「ゆっくり聞き取りやすく話すようにしている。レジでの会話を楽しみに来店してくれる方もいて、私も元気をもらいます」と話す。高木店長は「安心して買い物できる店づくりを進めたい」と力を込める。

「生きる喜びに」

 同店にスローレジを提案したのは、市内でデイサービスなどを運営するNPO法人「たすけ愛京築」の統括理事、阿部かおりさん(54)。阿部さんはデイサービスの利用者らから、「レジで焦るのがつらい」という話を耳にしていたという。「欲しいものを自分で選び、お金を払って買うことは、生きる喜びにつながる。スローレジの取り組みが広がり、みんなが暮らしやすい社会になってほしい」と願う。

 ゆめタウンを運営する「イズミ」(広島市)は、南行橋店の取り組みを受けて、スローレジの実施店を増やしている。店によってやり方は異なるものの、中国地方や九州などにある64の大型店舗全てに広がったという。担当者は「多様なニーズに合ったサービスを提供したい」と説明する。

 福井県民生活協同組合は、高齢者に優しい店づくりの一環として、7月から全10店舗でスローレジ「ゆっくりレーン」を設置した。当初は週1回だったが、組合員から好評のため、今月からは毎日開設している。

ボランティア付き添い

 岩手県滝沢市のスーパー「マイヤ滝沢店」では2019年7月から、認知症の人がボランティアに付き添われながら買い物をする「スローショッピング」が行われている。

 イギリスで始まった活動で、地元の医師会や、包括支援センター、社会福祉協議会などが連携して実施。県内の他の自治体にも広がり始めている。

 同店では、毎週木曜日に店内のイートインで認知症の人や家族、ボランティアらが集うサロンが開かれる。サロンに合わせてスローレジが設置されており、希望者はボランティアと共に売り場を巡って商品を選び、レジで精算する。

 実施を呼びかけた同市の認知症専門医、紺野敏昭さん(72)によると、認知症の人や家族から「自信につながった」「表情が生き生きしてきた」などの声が寄せられているという。紺野さんは「認知症の人も、できることは自分でやりたいと思っており、買い物を通じて主体性や存在意義を再確認でき、社会との接点も生まれる」と説明する。

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