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ペットと暮らせる特養から 若山三千彦 

 かわいがってきた犬や猫と最期まで一緒に暮らしたい――。そんな願いをかなえてくれる全国的にも珍しい特別養護老人ホームが、神奈川県横須賀市の「さくらの里 山科」。そこで起きた人とペットの心温まるエピソードを、施設長の若山三千彦さんがつづります。

医療・健康・介護のコラム

伴侶動物福祉のモデルケース…認知症女性と愛猫の「ムギちゃん」

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伴侶動物福祉のモデルケース…認知症女性と愛猫の「ムギちゃん」

大山さんといつも一緒のムギちゃん

 大山安子さん(仮名、80歳代)と愛猫のムギちゃん(入居当時2~3歳)が、ペットと暮らせる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」に同伴入居したのは、2019年3月のことでした。“2人”がたどってきたそれまでの道のりは、高齢者とその愛猫、愛犬を一緒に支援する新しい福祉、「伴侶動物福祉」のモデルケースと言えるものでした。

 伴侶動物福祉とは、私が勝手につけた呼び名です。文字通り、高齢者や障害を持つ方など、要支援者とそのペット=伴侶動物を一緒に支援する福祉という意味です。私は福祉の目的とは、人を幸せにすることだと考えています。そして、世の中には、ペットと暮らすことが幸せの必須条件になっている人がいます。そのような人たちを幸せにするために、そのペット=伴侶動物のことも守る必要があるのです。人を幸せにするために、その伴侶動物も幸せにする、これが私が考える伴侶動物福祉です。

 ムギちゃんと“2人”暮らしだった大山さんは、認知症を患ってしまいます。徐々に悪化し、ついには自力で日常生活を送ることが不可能になりました。介護施設に入居する必要があったのですが、もちろんムギちゃんをおいていくつもりはありません。頑として施設入居を拒んでいました。

 「さくらの里山科」には、これまでに17人の高齢者が、愛猫や愛犬と一緒に入居しました。その大部分の方が認知症を患っていました。多くの人に共通しているのは、認知症が進んでも、愛犬、愛猫への思いは揺るがない、ということです。しかしその思いが、施設入居を拒んで、無理に独居生活を続けさせ、悲惨な生活状態を招いたことも少なくありません。幸い大山さんとムギちゃんは、悲惨な生活に追い込まれずに済みました。

 その幸運をもたらしたのは、精神科ソーシャルワーカーの存在です。大山さんは、自宅がある神奈川県三浦市内の病院で認知症の治療を受けており、そこの精神科ソーシャルワーカーの支援を受けていたのです。

 精神科ソーシャルワーカーは、PSWという略称で呼ばれることも多く、医療、保健、福祉の領域で主に精神的な障害のある方に対する社会復帰のための助言やサポートなどを行う専門職です。精神保健福祉士という国家資格を取得して働いている方もいます。

 具体的な仕事は、患者さんの生活面の支援です。その内容は住居や家事に関するアドバイスから就労支援や職場で生じた問題解決まで多岐にわたります。精神の疾病、障害に関する専門知識と対応法、そして様々な社会資源の活用法など高度な知識が必要な専門職であり、患者さんの生活を支える重要な役割を果たしているのに、世間ではあまり広く知られていないのが残念です。

 なお、精神科以外の医療機関等には、医療ソーシャルワーカー(MSW)という、同様の仕事を行う専門職がいます。やはり社会福祉士という国家資格を持っている人がいます。福祉施設にとっては、精神科ソーシャルワーカーや医療ソーシャルワーカーは、大切なパートナーと言えます。

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若山 三千彦(わかやま・みちひこ)

 社会福祉法人「心の会」理事長、特別養護老人ホーム「さくらの里山科」(神奈川県横須賀市)施設長

 1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取みといぬ文福ぶんぷく 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。

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