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森本昌宏「痛みの医学事典」

医療・健康・介護のコラム

「月の3分の1は市販薬を飲んでいた」と言う片頭痛の20代女性 新登場の注射薬で「人生の3分の1を取り戻した!」

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 Hさん(23歳、女性)は、「母親も頭痛持ちだったんですが、私も中学生の頃から頭がひどく痛むようになって、ずっと薬局で買った痛み止めでごまかしてたんです。でも、その痛み止めを飲む回数がすごく増えちゃって……」として、私の外来を受診された。「生理前から生理中にかけての期間が特にひどくって、最近では月の3分の1くらい、痛み止めを飲んでいるような状態。頭痛が起こる前に、決まって目の前がチカチカとし出すから、その時に薬を飲んじゃうんです。それに仕事もたびたび休むことになって」とのことであった。

 このHさんの診断は、家族歴にも頭痛があり、目の前がチカチカとする前兆( 閃輝(せんき) 暗点と呼ぶ)があることなどから、「片頭痛」で間違いはないだろう。さらには、現在、月に10日、鎮痛薬を服用していることからは、「薬物乱用頭痛」(前回紹介した「薬剤の使用過多による頭痛」)に陥っていると考えられた。

予防薬は「効いてくるまで我慢ができない」

「月の3分の1は市販薬を飲んでいた」と言う片頭痛の20代女性 新登場の注射薬で「人生の3分の1を取り戻した!」

 薬物乱用頭痛を引き起こす慢性頭痛では、片頭痛が圧倒的に多い(薬物乱用頭痛全体の実に約80%)。片頭痛患者さんでは、たとえば薬局で簡単に入手できるOTC医薬品の鎮痛薬を乱用することなどが原因となって、頭痛発作を頻回に起こすようになってしまうのだ。片頭痛の治療において最も大切なことは、適切な治療法を選択し、それを継続することなのだが、それがなかなか難しいんだよなぁ。

 現在、片頭痛の治療では、予防薬(私は抗うつ薬のトリプタノール、抗てんかん薬のバルプロ酸を処方している)と発作時の頓服薬(トリプタン系薬物)の内服が一般的ではあるが、予防薬をきっちり服用し続けることができないパターンが多い。予防薬は効果発現までに2~3か月間かかることもあり、「効いてくるまで我慢ができない」ってのもその一因であろう。また、効果があったらあったで、発作回数が減ると、「最近、頭痛が起こってないし」「なんか病院に行くのもおっくうだし」と、OTC医薬品ですませるようになってしまうのだ。

 一方で、「いつ頭痛発作が襲ってくるかと不安で」と、少しの痛みでも頓服薬を服用してしまうこともある。これらにより薬物乱用頭痛に陥ってしまい、「スケジュールを立てられない」「家族との時間がとれない」となるのだ。

月に1回の注射で片頭痛を抑え込む新薬が

 そんな方に朗報がある! 月に1回の注射で片頭痛を抑え込むことが可能となったのである。

 片頭痛は神経疾患である。その病態の解明が進んだ結果、(少し難しい話になるが)カルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide:CGRP)が痛みと大きく関係していることが判明したのだ。そして、そのCGRPを標的とした特異的な治療薬、皮下への注射薬であるガルカネズマブ(エムガルティ)が開発され、本年の4月から使用が可能となったのである。

 このガルカネズマブは片頭痛発作の日数を減らし、痛みの重症度を軽減、効きにくくなっていた頓服薬への反応を良くして服用回数を減らす、といった効果をもたらすのだ。臨床試験の結果では、約90%の患者さんで症状の改善が確認され、うち発作が半分になった方が約60%、発作が完全になくなった方が10%と報告されている。私も、今までに24名の患者さんにこのガルカネズマブの注射を行ってきたが、約85%である20人の方がその効果に満足されている。

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森本 昌宏(もりもと・まさひろ)

 大阪なんばクリニック本部長・痛みの治療センター長。
 1989年、大阪医科大学大学院修了。医学博士。同大学講師などを経て、2010年、近畿大学医学部麻酔科教授。19年4月から現職。日本ペインクリニック学会専門医、名誉会員。日本東洋医学会指導医。著書に『ペインクリニックと東洋医学』『痛いところに手が届く本』ほか多数。現在、大阪市北区の祐斎堂森本クリニックでも診療中。

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