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森本昌宏「痛みの医学事典」

医療・健康・介護のコラム

痛み止めを飲む回数が増えていき…30~50歳代の女性に多い「薬物乱用頭痛」を治すには?

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 以前に私の外来で片頭痛の治療を受けておられたGさん(28歳、女性)は、この6年間、まったく受診されていなかった。先日、久しぶりに顔を見せてくれたのだが、「仕事が忙しくて受診できなくて……。薬局で痛み止めを買っていたんですが、飲む回数が増えちゃって」と切りだされた。Gさんのように痛み止めの量が増えていく頭痛の多くが、「薬物乱用頭痛」である。元々の原因となっている頭痛は「片頭痛」のことが多い(80%を占めている)が、その他にも「緊張型頭痛」などでも起こり得る。

薬局で簡単に入手できるOTC医薬品でも

痛み止めを飲む回数が増えていき…30~50歳代の女性に多い「薬物乱用頭痛」を治すには?

 片頭痛に苦しんでおられる方が、不適切な治療を繰り返していると、頭痛発作が頻発するようになること(「慢性片頭痛」と呼ぶ)がある。月に10~15日以上起こる頭痛が、3か月を超えて続いている場合には要注意である。そして、頭痛発作を慢性化させてしまう最も一般的な原因が薬物の“乱用”であり、国際頭痛学会はこれらを「薬剤の使用過多による頭痛」(「薬物乱用頭痛」medication-overuse headache、MOH)として分類しているのだ。

 原因となる薬物は、片頭痛発作時に服用するエルゴタミンやトリプタン、さらにはアセトアミノフェン、非ステロイド性抗炎症薬などである(米国では麻薬も)。特に非ステロイド性抗炎症薬であるアスピリンやイブプロフェンは、町の薬局で簡単に入手できるOTC医薬品として販売されており、この“簡単に”という点が厄介なのだ。

女性で多くみられる理由

 全人口の1~2%の方(すべての頭痛の14.6%)が薬物乱用頭痛に苦しんでいると考えられている。わが国では女性が70%(米国76%、デンマーク73%、スペイン93%)を占めており、30~50歳代に多い。

 女性で多くみられる理由は、元来、片頭痛が女性で多くみられることが第一だが、そのほか、女性では生理、妊娠や出産、更年期といった体の変化、女性ホルモンの変動に伴って、頭痛の頻度や強さが変化することも影響している。わが国では、結婚年齢と第1子出産年齢の高齢化が進んでいるが、これが片頭痛の多くみられる時期と重なっていることも問題である。その他にも、職場でのジェンダーハラスメント、女性が昇進しにくい「ガラスの天井」、仕事や家庭で忙しくしている30歳代の「スーパーウーマン症候群」(完璧を目指すがためのストレス)なども原因となっている。結婚による社会からの孤立感、産後うつや育児のストレスなども大きく関係しているだろう。

 このように、ライフステージ、ライフスタイルの変化によって頭痛が悪化することも、薬物乱用につながる可能性があるのだ。

 乱用に至る機序として、麻薬などで引き起こされる薬物依存との類似性も指摘されている。少し難しい話になるが、依存から乱用を引き起こすメカニズムとして、脳の脳幹、中脳領域からのドーパミン(神経伝達物質)の放出増加が引き金となって、痛み発生の (いき) 値が低くなる、つまり痛がりになる「中枢性感作」が進むとも考えられている。

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森本 昌宏(もりもと・まさひろ)

 大阪なんばクリニック本部長・痛みの治療センター長。
 1989年、大阪医科大学大学院修了。医学博士。同大学講師などを経て、2010年、近畿大学医学部麻酔科教授。19年4月から現職。日本ペインクリニック学会専門医、名誉会員。日本東洋医学会指導医。著書に『ペインクリニックと東洋医学』『痛いところに手が届く本』ほか多数。現在、大阪市北区の祐斎堂森本クリニックでも診療中。

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