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今井一彰「はじめよう上流医療 あいうべ体操で元気な体」

医療・健康・介護のコラム

就寝中のマスクはなるべくやめよう 恐ろしい口呼吸の悪影響

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 感染予防のためとはいえ、長引くマスク生活にもうんざりしますね。大部分の人は寝るときにはマスクを外すことでしょう。一方で、目覚めたときに口が渇く、喉がヒリヒリする、風邪予防、いろいろな理由で就寝時にもマスクをして寝る人がいます。そうなると24時間、食事とお風呂以外はずっとマスクをしているような生活になってしまいます。これはコロナ禍の前からも、アナウンサーや歌手といった喉が商売道具の人たちによく見られた習慣です。

就寝中のマスクはなるべくやめよう 恐ろしい口呼吸の悪影響

 ただし、体をウイルス感染から守るマスクにも弊害がないわけではありません。血中酸素濃度が低下してしまったり、苦しくて呼吸数が増えてしまったりします。ついつい口を開けがちになり、口呼吸の習慣が根付くことがあります。また呼吸の問題だけでなく、皮膚炎や表情筋の衰えという問題も生じます。起きているときでもそうなのですから、無意識に筋肉の緊張が落ちてしまう就寝時には自然と口が開いてしまう危険性があります。

 私はなるべく、就寝中のマスク着用はやめるよう指導しています。寝ているときのお口ポカンや口呼吸は休養、回復のための睡眠の質を悪くしてしまっている可能性があるのです。

寝ているときに虫歯になる?

 では、睡眠時の口呼吸が引き起こす悪影響にはどんなものがあるのでしょうか。私たちの血液は厳密に弱アルカリ性に保たれています。口中は大体pH7の中性になっていますが、食事によってすぐ酸性に傾きます。食事によりpHが低下して5.5になると、歯の脱灰が始まります。つまり、酸の影響で歯の表面のエナメル質が溶け出します。この状態は唾液の作用により中性に引き戻され、傷ついた歯は修復されます。これを再石灰化と言います。

 酸性の状態が長く続くと、きちんと修復ができずに虫歯になってしまいます。それだけでなく、歯肉に炎症が起きたりもします。よく体が酸性になると悪いといいますが、口の中も酸性状態が続くと歯が溶け出したりして衛生状態が悪くなるのですね。

 寝ているときはもちろん食事をしていないのですから、口内は中性に保たれています。ところが酸性になってしまうことがあるのです。そう、口呼吸です。

就寝中のマスクはなるべくやめよう 恐ろしい口呼吸の悪影響

就寝中、口呼吸している場合のPHの平均値(図は論文を基に筆者作成)

 就寝中の口内pHを調べた研究があります。口を閉じて鼻呼吸していれば、pHは7.0で安定しています。しかし、口をポカンと開けた口呼吸の状態では、寝入ってしまうと徐々にpHが低下していき、10人の平均値ではpH6.6にまで下がり、なんと最低値はpH3.6という恐ろしいものでした(※1)。

 これは胃酸が上がってきているような低さで、歯がどんどん溶け出してしまうほどの低値です。もともと就寝中は唾液の分泌量が減少しますし、加えて口呼吸により唾液が乾燥して中性に戻す作用が失われてしまうのです。こうなっては、せっかく寝る前に歯みがきをしても、寝ながら虫歯をつくっているようなものです。

 就寝中のマスクは呼吸がしにくくなるだけでなく、虫歯を誘発したり、歯肉炎や口内炎の治癒を遅らせたりして、口腔こうくう内環境を悪化させます。これでは健康のために寝ているのか、不健康になるために寝ているのか分かりません。

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今井 一彰(いまい・かずあき)

 みらいクリニック院長、相田歯科耳鼻科内科統括医長

 1995年、山口大学医学部卒、同大学救急医学講座入局。福岡徳洲会病院麻酔科、飯塚病院漢方診療科医長、山口大学総合診療部助手などを経て2006年、博多駅近くに「みらいクリニック」開業。日本東洋医学会認定漢方専門医 、認定NPO法人日本病巣疾患研究会副理事長、日本加圧医療学会理事、息育指導士、日本靴医学会会員。

 健康雑誌や女性誌などに寄稿多数。全国紙、地方紙でも取り組みが紹介される。「ジョブチューン」(TBS系)、「林修の今でしょ!講座」(テレビ朝日系)、「世界一受けたい授業」(日本テレビ系)、「ニュースウオッチ9」(NHK)、「おはよう日本」(同)などテレビやラジオの出演多数。一般から専門家向けまで幅広く講演活動を行い、難しいことを分かりやすく伝える手法は定評がある。

 近著に「足腰が20歳若返る足指のばし」(かんき出版)、「はないきおばけとくちいきおばけ」(PHP研究所)、「ゆびのば姿勢学」(少年写真新聞社)、「なるほど呼吸学」(同)。そのほか、「免疫を高めて病気を治す口の体操『あいうべ』」(マキノ出版)、「鼻呼吸なら薬はいらない」(新潮社)、「加圧トレーニングの理論と実践」(講談社)、「薬を使わずにリウマチを治す5つのステップ」(コスモの本)など多数。

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