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Dr.若倉の目の癒やし相談室 若倉雅登

医療・健康・介護のコラム

卓球の水谷隼選手が明かした「ビジュアルスノー」症候群とは…視力検査、眼球の診察でも分からない、「視界砂嵐症候群」「小雪症候群」とも

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卓球の水谷隼選手が明かした「ビジュアルスノー症候群」とは…視力検査、眼球の診察でも分からない、「小雪症候群」とも

 「本書を読み込まれた勘のよい方は、(目の不調の理由を)説明できる記述に出会っているはずです」

 これは、2年後に東京五輪で金メダリストになる卓球の水谷隼選手=写真=が、目の不調を訴えているというニュースが入ってきたタイミングで出版した小著『心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因』(集英社新書)の「おわりに」で、私が豪語した一文です。

 水谷選手は24日、『打ち返す力 最強のメンタルを手に入れろ』(講談社)を出版し、その中で、自分の目の病名は、「ビジュアルスノー」症候群であったことを打ち明けています。

 この症候群は、一般の方はもちろん、医師もほんの一部の専門家を除くと初めて聞く名称だと思います。しかし、これは冒頭の小著や、私がヨミドクターのコラム「心療眼科医・若倉雅登のひとりごと」で、2016年と2018年に「小雪症候群」として取り上げたものに一致します(たとえば 『目の前に「ノイズ」が降り注ぐ…視力検査では分からない「小雪症候群」』 )。

 おそらく、こうした視覚の異常感覚を持つ人は、太古の昔から一定数存在していたのでしょう。ですが、医学はつい最近までそれを見つけることができませんでした。自分だけにしか分からない固有の感覚は、医師という第三者によって検出する方法がないからです。

 「ビジュアルスノー」症候群は、視界一面が細かな小雪もしくは砂嵐のようなもので覆われ、見たい対象物を見えにくくしてしまう現象です。大半の人は、まぶしさ( 羞明(しゅうめい) )を訴え、特に光などを見た後、残像が残り続けることを体験します。

 しかし、落ち着いて視力検査を受ければ、ほとんど低下がないことも特徴です。眼科での視力検査では視標は動きませんし、理想的な照明下で行うので、見え方の質が少々悪くても視力の数値としては正常に出てしまうのです。

 つまり視力検査は、明るさや動きや距離がいろいろに変化する日常の見え方を必ずしも反映していません。まして、その検査から、水谷選手が必要とする高度な動体視力は推測できないのです。

 脳の機能をみる特殊な画像研究から、脳の誤作動が原因だと推定されていますが、詳細なメカニズムはまだ分かっていません。

 このように、視力検査にも現れない、眼球を診察しても異常がない、脳の問題かとMRI(磁気共鳴画像)検査をしても正常となると(水谷選手もそうでした)、医師は分からない、ありえない、果ては心因性だなどとして興味を失ってしまうのです。そうした従来の医学では検知することが困難な、感覚異常、感覚過敏を示す病気や状態は、おそらく少なからずあるものなのに、医学の 俎上(そじょう) に載ってこなかった歴史があると思われます。

 水谷選手は自分の目の状態を告白している章に「なぜ目が……? 『理解されないこと』が、一番苦しい」というタイトルをつけています。

 この水谷選手の告白を機会に、第三者からは想像することが困難な視覚や感覚の過敏状態に医学の光が当たることを切望して、やみません。

 前回のコラムで「本コラムも残すところ今回と次回の2回となりました」と書きましたが、急きょ執筆いたしました。次回が最終回となります。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年、東京生まれ。80年、北里大学大学院博士課程修了。北里大学助教授を経て、2002年、井上眼科病院院長。12年4月から同病院名誉院長。NPO法人目と心の健康相談室副理事長。神経眼科、心療眼科を専門として予約診療をしているほか、講演、著作、相談室や患者会などでのボランティア活動でも活躍中。主な著書に「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、「健康は眼にきけ」「絶望からはじまる患者力」「医者で苦労する人、しない人」(以上、春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社新書)など多数。明治期の女性医師を描いた「茅花つばな流しの診療所」「蓮花谷話譚れんげだにわたん」(以上、青志社)などの小説もある。

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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

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