産業医・夏目誠の「ストレスとの付き合い方」
医療・健康・介護のコラム
仕事人間の夫の定年退職で妻が胃痛に……ストレスを“感染”させないためにどうすればいい?
夫がストレス、妻の方が精神科を受診
このケースは、妻の昭代さん(仮名)が私の外来を受診して扱うことになりました。昭代さんは、精神的な問題が体に症状として表れる「身体表現性障害」と診断しました。ノイローゼです。軽いクスリを処方し、カウンセリングを行いました。昭代さんの不調の原因は、終日家にいて不機嫌で病院巡りをしている夫の存在にありました。カウンセリングで夫との生活を振り返り、いろいろなことに気づきました。
仕事はストレスだが、夫は活躍
昭代さん: 夫が40歳から50歳代のころは、多忙で帰宅も遅かった。私は「ちゃんと休みを取った方が」と思っていましたが。いま思えば、あの時の夫は生き生きとしていました。
精神科医: 生き生きしていたんだ。
昭代さん: バリバリ仕事をこなしていたんだなぁと思い出しました。部長にも早く昇進したし。
精神科医: 仕事が活動源になっていたんだ。
昭代さん: 今になってわかるのですが、夫にとって、仕事はちょうどいいストレスだったのかもしれません。
精神科医: そうですね。ストレスはマイナスに作用するだけではなく、プラスにも働きます。人生のスパイスですからね。
昭代さん: スパイスですか。
精神科医: ストレス学説を提唱したハンス・セリエ博士が言っています。例えば塩分が程よくあれば、料理もおいしい。
昭代さん:頑張るエネルギーになるんですね。だから定年で仕事がなくなった今は、ストレスがなくなってしまったのでしょうか。
趣味を持つように助言をしたが…
精神科医: そうです。何か張りになるような刺激が必要ですね。ストレスがね。趣味は、どうかな?
昭代さん: 趣味がない人で……。私は絵が好きなので絵画教室を勧めたのですが。夫は「手ごたえが感じられない。仲間がいないから張り合いがない」と言って、すぐにやめました。ゴルフも勧めたのですが。練習だけでは面白くないみたい。
精神科医: グリーンに出ないの?
昭代さん: 退職したらゴルフ仲間もいなくなって。4人1組で回るから。
現実を受容できず
精神科医: ご主人の病院巡りは、仕事の代わりに病気探しという課題を見つけて取り組んでいるのかもしれませんね。だけど、それもどこか違うと感じているから不機嫌で、自分の状態の気づきができていない。
昭代さん: わかっていないです。
精神科医: 退職した現実を受け入れていない。受容されていないですね。
昭代さん: もちろん頭ではわかっているでしょうが……。
精神科医: 感情や体が受け入れていない。
昭代さん: わかります。
精神科医: 何か張り合いになるもの、適度なストレスがあれば、病院巡りも減るでしょう。
昭代さん: もう一度、夫婦で話し合ってみますね。
精神科医: 時間がかかるかもしれません。
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