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武井明「思春期外来の窓から」

医療・健康・介護のコラム

短いスカートをはくんじゃない!…母の言葉でダイエットを始めた女子高生 32キロでも「もっとやせたい」

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「やせていることが望ましい」というメッセージの氾濫

 大学に進学した千夏さんは、家を出て一人暮らしをはじめました。新たな友だちができて、サークル活動で忙しい毎日を送るようになりました。家を離れてから体重に対するこだわりが薄らぎ、友だちとも一緒に飲み食いをしているようです。標準体重にはいまだ達していませんが、体重がやや増加し、元気に大学生活を送っています。

 千夏さんは幼い頃から、「やせていることがよいこと」という価値観を、お母さんによって刷り込まれてきたと考えられます。高校生になった千夏さんは、お母さんから体形を注意されたのをきっかけに、やせることと健康な体を維持することとのバランスが崩れて、一気に神経性やせ症の発症に至りました。

 「やせていることが、女性の望ましいイメージである」というメッセージは、テレビ、ネット、出版物などのメディアを通じて、社会のいたるところに氾濫しています。スリムでやせた体形の女優やモデルがテレビに映し出され、グラビア写真に撮られています。雑誌をみると、大人の女性向けの雑誌だけではなく、ティーンエージャーの女子向けの雑誌でさえ、ダイエットの特集が繰り返し組まれています。

 さらに、欧米を中心に、やせていることは、「自己コントロールできる理想的な人間」として評価される風潮があります。体重のコントロールをできていることが、その人の職場での能力の高さを示しているとみなされるのです。

 千夏さんのお母さんは、今の社会で 蔓延(まんえん) している「やせていることはよいこと」という価値観を素直に取り入れ、自らもやせた体形を維持していました。そして、娘の千夏さんにも、それを強要してきたのです。

画一的な価値観から大人が解放されること

 神経性やせ症の発症には、さまざまな要因が複雑に絡んでいますが、社会全体がやせた体形に価値を置く考えが、この病気を増加させているひとつの要因ではないでしょうか。

 最近になってようやく、やせ過ぎのファッションモデルが、若い女性の過度なダイエットを助長し、彼女たちの健康に悪い影響を及ぼしているということが世界的に議論されるようになりました。やせることがよいという画一的な価値観から、私たち大人が早く解放され、外観だけで人を評価したり、判断したりすることのない社会をめざしたいものです。(武井明 精神科医)

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武井 明(たけい・あきら)

 1960年、北海道倶知安町生まれ。旭川医科大学大学院修了。精神科医。市立旭川病院精神神経科診療部長。思春期外来を長年にわたって担当。2009年、日本箱庭療法学会河合隼雄賞受賞。著書に「子どもたちのビミョーな本音」「ビミョーな子どもたち 精神科思春期外来」(いずれも日本評論社)など。

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