武井明「思春期外来の窓から」
医療・健康・介護のコラム
短いスカートをはくんじゃない!…母の言葉でダイエットを始めた女子高生 32キロでも「もっとやせたい」
今回も思春期の女子にみられることの多い神経性やせ症(拒食症)の事例を紹介します。身近にいるお母さんの言葉によって子どもたちが随分と影響を受けることを改めて考えてみたいと思います。
高校入学から体重が増え始め
千夏さん(仮名)は、神経性やせ症のために思春期外来を受診した女子高校生です。
両親は、千夏さんが幼稚園の頃に離婚しました。その後、お母さんは仕事に出るようになったので、千夏さんはおばあちゃんにあずけられていました。
小学2年の時、お母さんはヨガ教室を開いてインストラクターをするようになりました。お母さんは細身の体形の持ち主で、絶えずカロリーを気にしながら食事を取る人でした。
お母さんは、幼い千夏さんにも、
「食べ過ぎよ」
「着る服がなくなるわよ」
「体重計でちゃんと量ってる?」
と繰り返して言っていました。
千夏さんは、小・中学校を通して優等生で、学業成績も優秀でした。中学校時代はバスケットボール部に入り、熱心に練習に励んできました。
高校に入学した千夏さんは、勉強に専念したいということで、部活には入らず、ひたすら勉強に打ち込むようになりました。部活をしなくなってから、千夏さんの体重が少しずつ増えはじめました。高校1年の夏休み明けには、体重がこれまでで最も多い75キロまで増加しました。その直後から千夏さんは、ダイエットを繰り返すようになりました。
高校2年になって、自己誘発性 嘔吐 がみられ、やせが一段と目立つようになったため、お母さんと一緒に思春期外来を受診しました。
初診時の千夏さんは、身長156センチ、体重32キロ(標準体重の63%)で、生理もしばらく止まったままです。千夏さんはやせが目立っていましたが、この体重でも「もっとやせたい」と考え、太ることをとても嫌がっていました。
お母さんは、小さい頃から手がかからず、優等生であった千夏さんがダイエットをはじめ、突然、自己誘発性嘔吐を繰り返すようになり、急にやせてきたことでとても驚いていました。
千夏さんは神経性やせ症ということで、2週間に1度の割合で、お母さんと一緒に通院することになりました。
しかし、通院が始まっても、診察室の千夏さんは「元気です」という言葉しか発することがなく、内面にふれるような発言をすることはありませんでした。
「鏡で自分の体をちゃんと見たことがあるの?」
通院を始めて3か月が 経 ちました。この頃になって、千夏さんは、ようやく自分の思いを語ってくれるようになりました。
「高校入学後、私は人生のなかで一番太ってしまいました。そんな私にお母さんは『丈の短いスカートをはくんじゃない! 太い足を見られたら恥ずかしいでしょう?』『ノースリーブを着るんじゃない! 太い腕を見られたら恥ずかしいでしょう?』『鏡で自分の体をちゃんと見たことがあるの?』と言ってきました。私が気にしていたことを、お母さんは情け容赦なく言ってきました。確かにお母さんは、ヨガのインストラクターをしているのでやせていて、すてきな体形です。でも、私をそこまで責めることはないと思う。それで腹が立って、お母さんを見返してやろうと思い、自分で吐くようになりました」
と言いながら泣き出しました。
一方、お母さんは、
「体形のことで同級生からバカにされないようにと思って、体重のことを言い続けてきました。他人よりもやせていることで、自分に自信を持てると思っています。私自身もやせた体形を維持することで、仕事を続けられているんですから」
と述べていました。
その後、千夏さんの体重は低いままで、増えることはありませんでした。
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