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ペットと暮らせる特養から 若山三千彦 

医療・健康・介護のコラム

“親子”そのもの 認知症の高齢者と愛犬ミック…夜は一緒に寝て、朝は一緒にリビングで、“2人”は幸せ

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“親子”そのもの、認知症の高齢者と愛犬ミック…夜は一緒に寝て、朝は一緒にリビングで、“2人”は幸せ

親子のような瀬川さんとミック

 3年前に、瀬川安江さん(仮名、90歳代女性)と愛犬のミック(ヨークシャーテリア系のミックス犬、現在9歳)が、「さくらの里山科」に緊急入居しました。

 瀬川さんは、軽度の認知症を患いながら一人暮らし、いえ、ミックと一緒の“二人暮らし”をしていました。日中はデイサービスに通うなど在宅介護サービスを利用しながら、日常生活は何とかギリギリの状況で続けていました。ところが、火の取り扱いは難しくなっており、ひやりとする事態を何回か起こしていました。東京で暮らす息子さんは横須賀(神奈川)に住む瀬川さんの元を頻繁に訪れ、いろいろ支援をしていたのですが、生活を常に見守ることはできません。

 心配だった息子さんは、火事につながらないようにと、ガスコンロやファンヒーターなど、火を使う物は危ないので撤去していました。また、瀬川さんは、エアコンのリモコンのボタンをカチャカチャと頻繁に押して壊してしまいました。買い替えても、またすぐに壊してしまったため、息子さんはそれ以上、買い替えるのを諦めました。

 そんな状況になったのが真冬のことです。だから瀬川さんは、火の気のない、大変寒い部屋の中で、冷たいお弁当を食べて過ごさなければなりませんでした。ミックと身を寄せ合って電気毛布にくるまって、寒さをしのいでいたそうです。

 また、認知症のために転倒を繰り返しており、服薬もあまりできていませんでした。

 「このままでは体を壊してしまう」と心配したご家族は、老人ホームに入ることを勧めますが、瀬川さんは頑として首を縦に振りませんでした。理由はもちろん、ミックを置いてはいけない、ということです。瀬川さんはかつてブリーダーをされていたほどの、大の犬好きで、ミックは何よりも大切な存在だったのです。

 息子さんも犬好きなので、ミックのことはちゃんと預かるからと話したのですが、瀬川さんは、「ミックと離ればなれになるのは嫌だ」と言って、説得に応じませんでした。認知症が進行しても、瀬川さんのミックへの思いは揺るがなかったのです。

 ちなみに介護の世界では、認知症の独居高齢者の凍死は、決してあり得ない話ではありません。私の法人の在宅介護サービス部門でも、一度、瀬川さんと同程度の軽度認知症の独居高齢者の凍死に出くわしたことがあります。ご家族が瀬川さんの体のことを心配されるのも、大げさな話ではないのです。

 ペットと一緒に入居できる特別養護老人ホームである「さくらの里山科」のことを知ったご家族は、「何とかすぐに入居させてもらえないか」と申し込まれてきました。真冬の2月のことです。瀬川さんのご自宅に様子を見に行った相談員は、緊急性が高いと判断しました。ちょうどその時、犬と入居できるユニット(区画)で1室空きが出たので、即時の入居を認めることにしました。いくら、「さくらの里山科」がある横須賀が比較的温暖であるとはいえ、真冬はそれなりに寒いです。暖房が何もない部屋で冷たいお弁当を食べていては、体を壊す恐れが高いです。しかし、ミックと一緒に入れる老人ホームは、ほかにはありません。うちのホームしか、瀬川さんを救うことはできないという緊急判断です。

 こうして瀬川さんとミックは、「さくらの里山科」にやってきました。

 瀬川さんはアルツハイマー型認知症で、短期記憶障害(最近の出来事を忘れてしまうこと)があります。そのため、いろいろなことができなくなっていますが、瞬間、瞬間の会話はしっかりできます。だから事情を知らない人が見たら、認知症には見えません。朗らかで快活な方で、すぐにホームでの暮らしになじみました。

 ミックは当時6歳。まだまだ若くてやんちゃなワンちゃんでしたが、ユニットの先住犬「文福」たちとすぐに打ち解けました。

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若山 三千彦(わかやま・みちひこ)

 社会福祉法人「心の会」理事長、特別養護老人ホーム「さくらの里山科」(神奈川県横須賀市)施設長

 1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取みといぬ文福ぶんぷく 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。

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