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街で障害のある人と出会ったら~共生社会のマナー

医療・健康・介護のコラム

【最終回】障害ってどこにあるの? 「個人」か「社会」か…パラリンピック閉幕に思う「本当の共生社会」

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 ヨミドクターをご覧のみなさま、サービス介助士インストラクターの冨樫正義です。コロナ禍に開かれた東京パラリンピックが無事閉幕しました。パラリンピックのスローガンとして「多様性と調和」が掲げられ、閉幕に伴い「これからは社会を変えることが大切である」という声を多く聞きましたが、社会を変えるとはどのようなことでしょうか。今回は障害の捉え方から、誰もが生活しやすい未来に向けて、社会をどのように変えるべきなのかを考えていきましょう。

「障害を乗り越えて」というフレーズ

【最終回】障害ってどこにあるの? 「個人」か「社会」か…パラリンピック閉幕に思う「本当の共生社会」

 あらためて障害について考えてみると、障害には二つの捉え方があります。一つは、例えば、「その人が聞こえない、歩けないということは、本人の問題であって、個人の責任である」とする考えです。この考えを「障害の個人(医学)モデル」と言います。個人の問題ですから、日常生活で生じた困ったことを解決するためには、「その人の努力や工夫」が求められます。パラリンピックの中継で、アナウンサーが「障害を乗り越えて」というフレーズを使用していましたが、これは障害の個人モデルの視点と言えます。スポーツ競技であれば、個人の努力で記録を伸ばしたり、勝負に勝ったりするのは素晴らしいことであり、障害の有無にかかわらず、称賛されることです。しかし、日常の生活ではいかがでしょうか。日常生活で障害のある人が直面する障壁(バリア)に対しても、個人の努力や工夫で乗り越えるべきなのでしょうか。

 そして、もう一つの考え方が、障害は社会側にあるという考えです。障害のある人が社会において直面する困難さ、例えば、聴覚障害者が電車内のアナウンス情報が得られないのは、音声情報しかないからであり、肢体不自由者がエレベーターのない施設を利用しにくいのは、施設に階段しかないからであるという、「社会の作り」に問題があるという考えです。

 音声情報が聞こえる人、階段で移動が可能な人など、多数派にとって便利な社会が作られていることで、少数派にとっては不便になっている現実があり、社会の作りや仕組みの偏りが障害の要因となっているという考え方を「障害の社会モデル」と言います。障害の社会モデルの視点で考えると、改善すべきは社会環境であると言えます。

 現存する社会の障壁(バリア)には、事物(段差などの物理的なもの)・制度(入試や入会などでの制約)・慣行(音声情報や視覚情報が主となっていような文化・情報)・観念(人の心にある差別や偏見など)という四つのバリアが挙げられます。今、社会を変える必要性が問われているのは、背景にこの「障害の社会モデル」の考えがあるからです。

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街で障害のある人と出会ったら~共生社会のマナー

冨樫 正義(とがし・まさよし)

冨樫 正義(とがし・まさよし)
 1973年、埼玉県生まれ。桜美林大学大学院卒(老年学研究科修士号)。東洋大学国際観光学部非常勤講師。法律事務所、不動産関係会社、人事コンサルタント、専門学校講師を経て、現在、サービス介助士、防災介助士、認知症介助士などを認定・運営する団体「公益財団法人日本ケアフィット共育機構」(0120‐0610‐64)のインストラクターとして、年間50社以上の企業対象研修を担当するほか、企業のバリアフリー・ユニバーサルデザインのコンサルティングも行う。

平野 恵(ひらの・めぐみ)

平野 恵(ひらの・めぐみ)
 視覚障害と軽度の移動機能障害がある。2歳から4歳まで盲学校幼稚部、その後、小学校から高校まで養護学校(現在の特別支援学校)に通い、高校まで車いすを使用して生活をしていたが、大学入学後の訓練を経て、現在では白杖のみで歩行している。日本ケアフィット共育機構事務局に勤務。サービス介助士アドバイザー。

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