Dr.三島の「眠ってトクする最新科学」
医療・健康・介護のコラム
眠っている間に、脳は老廃物を排出する。アルツハイマー病と睡眠不足の関係は…
こんにちは。精神科医で睡眠専門医の三島和夫です。睡眠と健康に関する皆さんからのご質問に、科学的見地からビシバシお答えします。日々の生活で、私たちの体内にはさまざまな老廃物や有害物質が生じます。たまった老廃物や有害物を体外に排出させるのに一役買っているのがリンパ系です。比較的最近になって、脳にもリンパ系があることが発見されました。脳内リンパ系の働きは睡眠と大いに関係があるようなのです。いったい、どういうことなのでしょうか。
脳内の老廃物を排出するメカニズム
体内には膨大な数の細胞や組織があり、そこでは日々さまざまなたんぱく質や脂質などが作られ、生体機能を維持しています。その後、不要になったたんぱく質や脂肪、その断片などの老廃物は細胞外に排出されます。老廃物は当初、細胞と細胞の間を満たしている体液(細胞間質液)の中に漂い出ます。細胞間質液はもともと血管からしみ出した血液成分( 血漿 )なので、次から次へと供給されます。そのため老廃物を含んだ細胞間質液は徐々に押し流され、体中に張り巡らされたリンパ管を通って最終的には血管に戻され、腎臓を経て尿や便の中へと排出されます。
脳内にも神経細胞をはじめとする多数の細胞が存在します。そのため、毎日かなりの量の老廃物が生じます。では、脳の老廃物はどのようにして洗い出されているのでしょうか? 多くの研究者は、脳の中でもリンパ液に乗せて排出しているのだろうと考えてきましたが、長い間、脳内でそれらしきリンパ管は見つかりませんでした。体のリンパ系は300年以上も前の西暦1600年代にはすでに見つかっているのに対して、脳のリンパ系が発見されたのは2010年代に入ってからのことでした。
脳内リンパ系の仕組みを簡単にご説明しましょう。脳には大きく分けて「神経細胞」と「グリア細胞」の2種類の細胞があります。そのうちグリア細胞が脳内の動脈の周囲を包み込み、血管の外側に狭い隙間を作っていたのです。血管の周囲をさらに太い管で取り囲んだイメージです。脳を包む液体(脳脊髄液)がこの隙間を伝って脳の細部に入り込み、神経細胞の周囲にリンパ液としてしみ出して、老廃物を洗い流していたのです。老廃物を含んだリンパ液は、今度はやはりグリア細胞によって静脈の周囲に作られた隙間に沿って脳外へと流れ出るのです。
1 / 2
【関連記事】
※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。
※個人情報は書き込まないでください。