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Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

抗がん剤治療中に腫瘍マーカーの数値が上がってきました。もうダメなのでしょうか?

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抗がん剤治療中に腫瘍マーカーの数値が上がってきました。もうダメなのでしょうか?

イラスト:さかいゆは

 血液検査で測定でき、体の中のがんの存在やその勢いを表すとされている「腫瘍マーカー」。CEAやCA19-9など様々ながんで使われるものから、前立腺がんのPSA、卵巣がんのCA125、乳がんのCA15-3など特定のがんで使われるものまで、数多くの腫瘍マーカーがあります。日本では、この腫瘍マーカーの測定が盛んに行われていて、いわば「腫瘍マーカー大国」です。ただ、これは必ずしも好ましい状況ではありません。検査を受けてしまったために、不利益をこうむっている方もたくさんおられますので、「検査できるならついでに」と、安易に測定するのではなく、そのプラス面とマイナス面をよく理解した上で、検査を受けるかどうか判断する必要があります。

 腫瘍マーカーの検査が行われるのは、主に次の三つの場面です。

  • (1)がん検診(がんの早期発見)
  • (2)早期がん手術後の経過観察(再発の早期発見)
  • (3)進行がんの診断や治療効果判定

  前回のコラム や、 以前のコラム でも書きましたが、私は、(1)や(2)の場面では、腫瘍マーカー測定はしない方がよいと思っています。もし、腫瘍マーカーを測定する意味があるとしたら(3)の場面で、今回いただいたのは、それに関するご質問です。

数値の変動に一喜一憂する患者さん

 遠隔転移のある進行がんでは、腫瘍マーカーの数値が高くなっていることが多く、体全体のがんの勢いを表していると考えられます。抗がん剤などの薬物療法を行って、数値が下がれば「効いている」、数値が上がれば「効いていない」と判断できます。腫瘍マーカーは1か月に1回の測定が可能ですので、毎月測定しながら治療が行われることが多いようです。

 腫瘍マーカーは、明確な数字で示されるので、とてもわかりやすい指標ですが、わかりやすさゆえに安易に使われすぎているようです。腫瘍マーカーの変動に一喜一憂してしまう患者さんや、診察の際に、何よりもまず腫瘍マーカーの数値を聞きたがるような患者さんもおられます。多くの患者さんが、自分の運命を左右するものであるかのように、この数値を気にしているわけですが、実際のところ、それほどの意味があるものなのでしょうか。

 「効果」とは何かというと、それは、「治療目標」に近づくことです。進行がんの場合、一人ひとりの患者さんの状況や価値観によって、治療目標もいろいろありえますが、「いい状態で長生きすること」というのが、多くの方にとっての目標となります。では、「腫瘍マーカーを下げること」は、究極の目標となりえるでしょうか。「いい状態で長生き」ができなかったとしても、「腫瘍マーカーを下げること」に意味があるのか……と考えてみると、やはり、究極の目標とは言えないと思います。腫瘍マーカーの値がどうであれ、「いい状態で長生きできること」の方が重要なはずです。

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高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大付属病院で研修後、2000年より東京共済病院呼吸器科医員、02年より国立がんセンター中央病院内科レジデントとして経験を積んだ。05年に東京共済病院に戻り、「腫瘍内科」を開設。08年、帝京大学医学部付属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に最年少部長として赴任し、「日本一の腫瘍内科」を目標に掲げた。10年間の虎の門時代は、様々ながんの薬物療法と緩和ケアを行い、幅広く臨床研究に取り組むとともに、多くの若手腫瘍内科医を育成した。20年には、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、かつてのヨミドクターの連載「がんと向き合う ~腫瘍内科医・高野利実の診察室~」をまとめた、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)がある。

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