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山中龍宏「子どもを守る」

 子どもは成長するにつれ、事故に遭う危険も増します。誤飲や転倒、水難などを未然に防ぐには、過去の事例から学ぶことが効果的です。小さな命を守るために、大人は何をすればいいのか。子どもの事故防止の第一人者、小児科医の山中龍宏さんとともに考えましょう。

妊娠・育児・性の悩み

子ども用の椅子に立っていた子が転落し頭部骨折 「高さ75センチ以上」は大けがのリスク

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 前回は、1~5歳児の転落で最も頻度が高い「階段」について取り上げましたが、今回は2番目に多い「椅子からの転落」についてお話しします。椅子は、日常生活に欠かせない身近な製品で、幼児が椅子から転落することはよくあることですね。自宅だけでなく、外出先や帰省先でも転落します。

子ども用の椅子に立っていた子が転落し頭部骨折 「高さ75センチ以上」は大けがのリスク

イラスト:高橋まや

約8割は保護者の目の前で

 東京消防庁が発表している各年の「救急搬送データからみる日常生活事故の実態」から、2014~19年の6年間に、転落が原因で搬送した1歳児と2歳児のデータを多いものから順に見てみましょう(表)。毎年、同じ年齢の子どもに、同じ事故が、ほぼ同じ件数発生しており、これまでの予防策では不十分であることがよくわかります。

子ども用の椅子に立っていた子が転落し頭部骨折 「高さ75センチ以上」は大けがのリスク

 1~5歳児がいる保護者3000人を対象とした 東京都生活文化局のアンケート調査 では、一人がけの椅子に関連して、子どもが「ケガをした」と「ヒヤリ・ハット経験をした」を合わせると82%を占めていました。このうち、ヒヤリ・ハット経験が78%、ケガをしたのは22%(病院を受診しなかった:13%、受診した:8%、入院した:1%)でした。年齢別にみると、1歳が38%と最も多く、2歳が30%、3歳が15%と続いていました。男女差はほとんどありませんでした。

 椅子の種類には、座面の高さが30センチ以上のハイチェア、30センチ未満のローチェア、テーブル取り付け式チェア、バウンサー、安楽椅子、オフィスチェア、ダイニングチェア、丸椅子などがあります。ケガ等を経験した椅子では、ハイチェアが40%、次いでダイニングチェアが30%となっていました。転落した座面の高さは60センチ未満が80%を占めていました。

 一人がけ椅子に関連したケガは、転落が約80%、それ以外に、椅子に引っかかって転ぶ、走っていてぶつかる、椅子のすき間に指や頭が挟まれる、椅子を運ぼうとして転ぶなど、いろいろなケガが起こっていました。

 子どもがケガをした、あるいはケガをしそうになったとき、保護者が子どもを見ていたかどうかたずねたところ、約8割の保護者は「見ていた」と回答していました。子どもは、見ている目の前で転落するのです。

デスクチェアを回して遊んでいてテレビ台の角に

事例1 :1歳男児。小学生の長女が子ども用椅子(ハイチェア)に座り、その長女と背もたれの間に末子が立ち、お菓子の取り合いをしていた。座っていた長女に、「危ないから、今すぐに降ろすよう」と言ったが聞かなかった。母親は台所にいたので、すぐに行けず、声かけをしながら降ろしに行こうとした矢先に、末子は頭からひっくり返り、フローリングの床に転落した。頭部骨折と内出血のため入院した。

 子どもが椅子の上で立ち上がることはよくあります。ベルトを嫌がるために固定していない、あるいはベルトの固定が緩いとすり抜けて立ち上がります。ハイチェアの上に立つと、転落したときの衝撃力は大きくなります。

事例2 :1歳女児。ソファからハイチェア、大人用のダイニングチェアと飛び移って遊んでいた。ハイチェアに自分でよじ登り、足を滑らせてあごを強打した。

 椅子の昇降時にケガをすることがよくあります。

事例3 :3歳男児。デスクチェアを回して遊んでいて、遠心力に負けて振り落とされ、近くにあったテレビ台の角に頭をぶつけ、数針縫うケガをした。

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山中 龍宏(やまなか・たつひろ)

 小児科医歴45年。1985年9月、プールの排水口に吸い込まれた中学2年女児を看取みとったことから事故予防に取り組み始めた。現在、緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。NPO法人Safe Kids Japan理事長。キッズデザイン賞副審査委員長、内閣府教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員も務める。

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