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医療・健康・介護のコラム

不妊治療との両立に悩んで退職、ようやく妊娠も「やっぱりやめたくなかった」

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初の体外受精も陰性 病院帰りは涙がこらえきれず

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 初めての体外受精は、ホルモン注射を受けたり、卵胞チェックをしたりするため、仕事をしながら病院に行くための時間を作るのが大変だったそうです。有給休暇などをやりくりして、仕事の調整もしながら頑張ったのですが、妊娠の判定結果は残念ながら「陰性」。「これまでの努力と多額の治療費がすべてむだになってしまったことを思うと、なんだか力が抜けてしまって。何よりも、初めての治療だったから期待していたのに、やっぱり妊娠できなくて、私は妊娠できる日が来るのだろうかと絶望してしまい、病院帰りには涙をこらえられませんでした」とYさんは語ってくれました。

 その後、2回目の体外受精を受けることになったとき、Yさんはいよいよ仕事との両立に悩むことになりました。ちょうどその頃、Yさんの同僚が育休を取って人が1人減っていた上に、後輩も妊娠してまもなく産休を取ることになっていたからです。2人も抜けてしまって、その上、自分が不妊治療のためにしばしば休んでしまったら、仕事が回らないのではないかと悩んだそうです。

 「それでも、こうしている間にもどんどん年はとっていくと思うと、気持ちが焦ってしまって、治療を休むということは考えられなかった」と、Yさんは次の治療を受けることにしました。この時、気が重かったのですが致し方なく、上司にだけは事情を話しました。上司からはいい顔はされなかったものの、そのつどの休みの許可はもらえたそうです。

仕事との両立に悩み、「不妊退職」を決断

 周囲に謝りながら何とか調整をして、仕事をしながら通院を続けました。しばしば仕事を自宅に持ち帰り、病院から帰ってきてから遅くまで仕事をすることもあったし、時には周囲からの不満や不審の声も聞こえるなど、大きなストレスを抱えながらの日々でした。けれども、2回目の治療の結果も残念ながら陰性。Yさんは妊娠できませんでした。

 そこでYさんが決意したのは「仕事をやめる」ということでした。いわゆる「不妊退職」です。不妊治療は「いつまで」というゴールが自分では決められません。「期限のない不定期な通院で、これ以上ストレスを抱えながらの両立はできないと思った」とYさんは語りました。周囲から直接言われたわけではないけれど、以前の同僚のように、もしかしたら陰では何か言われているかもしれないと思うとそれもつらかったし、何よりも、職場に迷惑をかけてしまうことが心苦しく、つらかったといいます。

退職後、2回目の体外受精で妊娠

 そして、仕事をやめてから2回目の体外受精で、Yさんは妊娠しました! 「もしかしたら、仕事を続けながらでも妊娠できたのかもしれないし、やめたからストレスが減って、それも良かったのかもしれないし、それはわかりません。仕事をやめたことを後悔していないかというと、それはやっぱりやめたくなかった。でも、あの時はそうするしかなかったなと、妊娠できたことで自分を納得させています」と笑顔になりました。

働きながら不妊治療する女性の5人に1人が退職

 Yさんのように「不妊退職」をする人は、実は珍しくありません。NPO法人Fineの「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート Part 2」(※1)では、働きながら不妊治療をする女性の5人に1人が退職しています。さらに翌年の厚生労働省の調査(※2)では、4人に1人の女性が不妊退職をしたという結果も出ました。そうした現状の中、企業に「不妊治療」に対するサポート制度があるところは、Fineの調査ではわずか6%にとどまりました。それほど社会の理解は進んでいないということです。

 Yさんのケースでは仕事をやめて治療に専念し、妊娠できたから、まだ救われるかもしれません。しかし不妊治療(体外受精)の出産率は、12%程度(※3)です。最も高度な治療を受けても妊娠・出産できるとは限らないのです。現に仕事をやめて治療に専念しても、残念ながら妊娠できない人も大勢います。長年頑張ってきた仕事も失い、望んだ妊娠もかなえられなかった多くの女性は、その後のライフ&キャリアをどうしたらよいか、困惑する人も多いのです。年齢別の妊娠・出産率をみると、子どもを望んで治療を受けるならできるだけ早くと願わないではいられません。

 そのためにも、どうか、企業や社会全体に、できるだけ速やかに不妊治療と仕事の両立のサポートの必要性が浸透しますようにと望んでいます。(松本亜樹子 NPO法人Fine=ファイン=理事長)  

※1「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート Part 2」
https://j-fine.jp/prs/prs/fineprs_ryoritsu1709.pdf
https://j-fine.jp/prs/prs/fineprs_ryoritsu2_1710.pdf

※2「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査事業」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000197936.html

※3 令和元年度倫理委員会 登録・調査小委員会報告(2018 年分の体外受精・胚移植等の臨床実施成績および2020 年 7 月における登録施設名)
http://fa.kyorin.co.jp/jsog/readPDF.php?file=72/10/072101229.pdf

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松本亜樹子(まつもと あきこ)

NPO法人Fine理事長/国際コーチ連盟認定プロフェッショナルサーティファイドコーチ

 長崎市生まれ。不妊経験をきっかけとしてNPO法人Fine(~現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会~)を立ち上げ、不妊の環境向上等の自助活動を行なっている。自身は法人の事業に従事しながら、人材育成トレーナー(米国Gallup社認定ストレングス・コーチ、アンガーマネジメントコンサルタント等)、研修講師として活動している。著書に『不妊治療のやめどき』(WAVE出版)など。
Official site:http://coacham.biz/

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